彼氏にタピオカしか愛せないと言われたら
シキ
彼氏にタピオカしか愛せないと言われたら
「なあ、喫茶店でも寄らない?」
声をかけてきたのは私の恋人の馬龍。中国人と日本人のハーフで、カッコいい漢字なのに読み方はまろんって知った時の衝撃は忘れられない。
「はい、行きましょ!」
そんな彼の恋人でもある私、華は生まれて16年始めてできた彼氏の隣で歩くことができ、胸を弾ませていた。
そんな彼との出会いは高校に入学して数日後だった。私は学校の帰りに通り行きつけの喫茶店で、アイスミルクティーを飲みながらその日、借りてきた本を読む。そんななんでもない日々を繰り返していた。
「タピオカ…?」
「そう、今日から始めたんだー。」
いつものように学校の帰りに行きつけの喫茶店に寄った。お店のお姉さんに詳しく話を聞くとどうやら、ミルクティーにタピオカを入れることができるようになったとのことらしい。流行りに乗ったとのことだ。しかし、私はタピオカを食べたことが人生で一度もない。ナタデココは食べたことがある。プチッとしてもちっとして美味しい。だが、タピオカとはどのようなものなのか、どうしても気になりタピオカミルクティーを1つ注文し、会計を済ませた。お店のお姉さんはいつものように席で座って待っててと言わんばかりに返事をし、店の奥へと入って行った。
「タピオカミルクティーのお客様ー。」
3分ぐらいの時間だろうか、短かったのか長かったのか分からないぐらいの時間が経った。
「はい!」
私は待ってましたと言わんばかりに席を立ち、テーブルの上にあるタピオカミルクティー目掛け、足を運んだ。やっと飲むことができー…その時だった。私が掴もうとした、タピオカミルクティーを私ではない誰かが掴もうとし、私の手とその人の手が触れた。
その人の顔を見上げると、目元まで伸びた前髪。パッチリと開いた目。少し高い鼻で、整った顔立ちで、身長は私より20cm程高いだろうか、身体付きもよく感じた。
「あっ、すみません。」
そっとお互い、手を引っ込める。ああ、このタピオカミルクティーを他にも頼んだ人がいたんだと肩を落としていると、すぐ、もう一つのタピオカミルクティーが運ばれてきた。
「こうなったのも何かの縁かも知れませんし、良ければ一緒に飲みませんか?」
ああ、やっと私のタピオカミルクティーが運ばれてきたのねと思ったのもつかの間、先程、手が触れてしまった男性が声をかけてきた。正面から見るその男性の微笑みに私は断りきれず、一緒にタピオカミルクティーを飲むことになってしまった。
「モチモチして美味しいですね。」
「は、はい…。」
お互い向かい合わせに席に座り、タピオカミルクティーをすする。男性とこのように二人っきりでドリンクを飲むのは初めてのことで、私にはタピオカミルクティーの味はよく分からなかった。自分でも自分の心臓の音がドキドキと鳴り響いてるのが聞こえる。何か話さなきゃ、何か。そう考えているうちに咥えたストローからズーと音が聞こえた。気づけばもうタピオカミルクティーを飲み干してしまったのだった。
「飲むの早いんですね。」
私を見ながら少し笑いながら声をかけてくる彼もどこか惹かれるものがあった。
「あのっ。」
「はい?」
私は飲み終えたタピオカミルクティーを机に置きその場に立ち上がり、声をかけた。
「私と付き合ってください!」
これが彼と私のファーストコンタクトだった。
なんだかんだ付き合うことになった私、華と馬龍は休日ということで初めてのデートに来ていた。お互い何のプランもなかったが、ただ一緒に歩いているだけで、胸がいっぱいだった。
そして、あの日出会った喫茶店に着く。
「何注文しよっか?」
私はタピオカミルクティーの味をまだ詳しくは分からない。それに彼と一緒だと、また味がよく分からないかもしれない。けど、またタピオカミルクティーを一緒に飲みたいな。なんて考えて馬龍に声をかける。
「タピオカミルクティーにしない?」
私の考えが通じたのか、前に飲んだタピオカミルクティーがそんなに美味しかったのか、彼は笑みを浮かべながら返事をしてくる。
「じゃあ、タピオカミルクティー2つで!」
そうお店のお姉さんに言うと、彼が財布を開き、私の分のお金も出してくれた。聞けば馬龍も私と同じ同級生で、そんなにお金に余裕がないはずなのに…そんな彼の優しさに甘えながら、注文したタピオカミルクティーを待った。
席に座り、タピオカミルクティーを待つ間、何も会話もせず、ドキドキとした時間は永遠にも感じられた。
「タピオカミルクティー2つご注文のお客様ー、」
お店のお姉さんの声に馬龍が立ち上がる。
「ちょっと待ってて。」
そう彼は言って2人分のタピオカミルクティーを持って帰ってきた。
「はい。華ちゃん。」
そう言って差し出されたタピオカミルクティーのストローを咥える。
いつものミルクティーの味にモチモチとした食感が口に広がる。ああ、こんな味だったんだなあと考えていると、馬龍は気難しそうな顔をしている。
「なに?何かあった?」
私が声をかけると、馬龍はタピオカミルクティーを机に置いた。
「すまん、俺にはタピオカしか愛せない。」
私はそれがどう言った意味なのか解釈するのに時間がかかった。
「え?」
私は困惑しつつも、肩を震わせながら何を言われたのか聞き返す。目頭が熱くなってきているのが分かる。泣くな。泣くな私。
「俺がドキドキしていたのは君じゃない。タピオカだったんだ。」
馬龍からはそう告げられた。プラシーボ効果というやつか、彼がドキドキしていたのはタピオカで、私にもドキドキしていたのと勘違いしていたということらしい。
私は膝から崩れ落ち、我慢していた涙が溢れた。
「そんな…。」
私が小一時間泣いた後、泣き止んだ後には彼はもうその席からはいなくなっていた。
ただ、机の上には氷が溶け、水とミルクティーの二重層になった、タピオカミルクティーが机の上にあった。
「元気だしなよ。姉ちゃん。」
その時ハンカチを差し出し、声をかけてくれてたのは喫茶店のお姉さんだった。いつも私にミルクティーを出してくれてたお姉さん。私は顔をぐしゃぐしゃにしているのを見られないように袖で顔を拭った。
「でも、でも…。」
それでも涙はまだ溢れてきた。
「一通り見てたよ。あんたさ、うちの従業員にならない?」
お姉さんに言われてハッとした。
彼が好きなタピオカを作るのが私なら私を見てくれるのではないかと。
「はい。」
私は覚悟を決めた。タピオカを作り彼を見返してやる!!!
そう、これは私がタピオカの神と呼ばれる英雄伝である…。
彼氏にタピオカしか愛せないと言われたら シキ @shiki0314
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