奴隷として生まれた聖女は魔族に拾われる。
ユキノシタ
第1話 鎖
黒い髪、黒い瞳、全身黒い服やマントをまとい、肌は白すぎず黒すぎず見た目は普通の人間の男だが、一か所だけ普通ではない場所があった。
こめかみあたりから上へ伸びた角が、人とは違うものだといえる。
男の見た目は30代後半であるが、年の割には整った顔をして、髪は短めで体は引き締まり腹筋はわれている。
「殿下、魔族領に戻りましょう。魔王を決める決闘が間もなく始まります。」
男の隣を歩いている執事のような初老が必死に話しかける。この初老にももちろん角が生えている。
「え~?いやだよ。俺魔王になりたくねぇし。俺みたいなおっさんじゃなくて、弟達とか有能な部下がいるだろ?」
「バハル殿下、そうはいわれましても貴方様は次期魔王候補者であり、一番魔王に近いと言われている方なのです!現魔王様のご子息の中でも一番お強いではないですか!」
どんなにいっても歩くスピードを緩めないバハルと呼ばれた男に泣くような声で必死に説得しながらついていく。
そう、バハル達が歩いているスピードは人間が思う速さではない。馬が駆けているような速さである。
「しつこいなぁ、お前も。俺はこれから好きなものを食べて飲んで寝て、女とイイことして、好きな時間に寝て起きる、そんな暮らしをするんだよ。邪魔するなよ。」
「バハル殿下!?本気で言っているんですか!?近いうちに人間共が勇者と聖女と兵と共に魔族領に来るって説明しましたよね!?学校でも再三言われてましたよね!?」
初老の魔族は目が見開き血走り、唾を飛ばしながら声を荒げる。
「あー・・・うるせぇ。スラング、帰れよ。」
肩耳を抑えながらジト目でスラングと呼んだ初老を見る。
「いいえ!帰りません!!魔族領に連れ戻すまではこのスラング・アドヴァン、決して帰りませぬ!!」
胸に手を当てながら叫ぶ。
「あー、めんどくせぇ。じゃあ好きにしろ。でも俺は帰らねえからな。」
がさがさと森をものすごいスピードで歩いていたら開けた道に出る。
バハルは目を見開く。
「ほら、スラング。俺の根城にぴったりそうなところを見つけたぜ。」
「根城って……人間が住んでいた廃城ではないですか……。」
バハルは城に向かって指をさしながらにやにやと笑う。
スラングはおでこに手を当てながらため息をつく。
「こんなに荒れ果て、卑しい人間共が住んでいたところなど殿下にはふさわしくありません。」
「俺のような奴にはぴったりだろ?」
バハルはそういうとずかずかと中に入っていく。
門には蔦が巻き付き庭は草が生い茂ってはいるが、人がこの城を手放してまだ1年か2年ぐらいしかたっていないだろうと予測する。
「ここから大分離れたところに複数の人の反応がありますね。以前この場所は人間の貴族の住処か別荘だったのではないでしょうか?」
帰りますよ、と言いながらスラングは城の中までついてきて、周辺を検索サーチしていた。
「ここまで荒れ果ててるんだから俺が住んだって問題ねえだろ。」
城のドアを開けて中に入る。
中も大分荒れ果てているようだ。いや、これは……
「争った跡がありますな。」
二人は周りを見渡してスラングは顎に手を当てながら周りに危険がないかを確認する。
装飾品はあらず、いたるところに傷がある。
「ま、ここで何かあったとしても俺には関係ねーし、俺はここでしばらく過ごすぞ。スラング、とりあえずお前は帰れ。」
「拒否いたします。私はずーっと殿下の側で使えさせていただいていたのです。帰れと言われても簡単には帰りませぬ。」
「へいへい、勝手にし……ん?」
バハルは検索サーチを常に起動させていた。バハルはスラングより広範囲サーチすることができるが、城に入ってやっと何かが引っ掛かったのだ。
「どうかしましたか?」
「スラング、地下に通じる通路を探せ」
「地下ですか?何か引っかかりましたか?」
スラングは何のことかわからず首をかしげる。
それにここは荒れ果て、長い間人が入った形跡はない。
「探さないなら帰れ。」
バハルはスラングをどうしても帰したいようだが、スラングはニッコリ笑い少々お待ちくださいませ、と言って姿を消した。
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「くせえ……」
バハルのつぶやきが響き渡る
ぴちょん、と天井から水滴が落ちる。カビ臭く、異臭がする。あまりの臭さに鼻を抑える。
暗闇で前が見えないので、魔法で光をともす。
スラングが姿を消して10分ほど経って、地下に通じる階段を見つけたと姿を現す。
「殿下、私が見てまいりますので上で待っていただいても……。」
「いや、自分で確かめる。」
そう、自分で確かめたいのだ。
バハルのサーチは他の魔族やスラングよりも優れ、サーチに引っかかったものがなんなのか大体わかる。
だが、今サーチに引っかかっているものはネズミやもぐらなどではない。
サーチに長けているバハルにさえわからない何か、なのだ。
どのくらい進んだだろうか。
通った道にいくつものドアがあり中を確認すると、あるのは人間の骨の山と、よくわからい製造物であった。
大分歩いた気がする。引っかかる何かまでもう少し。
二人は目を見張り、互いに顔を合わせる。
最奥と思われる場所に、牢だろうか、頑丈な鉄格子がある。
近づけばさらに異臭がきつくなる。
「バハル殿下、これは一体……。」
バハルとスラングは目を見開き、鉄格子の向こうの あるもの をじっと見る。
そう、二人の目線の先に生きているのか死んでいるのかわからない 鎖につながれた一人の人間がいた。
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