部下篇(三):交渉

交渉




■相手を立ててやる

交渉の大前提は相手の地位による自主的な裁量権を最大限尊重すること

他人から「こうすべきです」と言われて素直に受け入れる人は少ない

まず「こうすればこうなります」という取りうる事例を述べ尽くす

そのうえで相手に決断を委ねてやる

自分で決断すればこそ成功したら「自分が成し遂げた」と誇れる

押しつけられれば「あいつの傀儡か」と強い反発心が生じる

良好な関係を維持したいのであれば「相手を立ててやる」に尽きる

《『六韜』武韜の巻文伐篇第十五より》

《『戦国策』秦より》

《『論語』八佾第三、里仁第四、憲問第十四、衛霊公第十五、

     季氏第十六より》

《『鬼谷子』権篇第九、謀篇第十》

《『韓非子』説難より》

《『三事忠告』牧民忠告より》

《『呻吟語』第二章、第三章より》

《『兵法家伝書』殺人刀 上より》

《『政略論』第三巻三十五より》




■相手が怒っていたらグチを聞く

相手が怒っていたら交渉せずに、相手のグチを聞いてガス抜きに努める

冷静に判断できないときに交渉を持ちかけても後日覆されることが多い

相手のグチを聞いてガス抜きをしてやれば相手は信頼を寄せてくる

《『戦国策』斉より》

《『論語』為政第二、陽貨第十七より》

《『鬼谷子』揣篇第七》

《『韓非子』説難より》




■相手が気分のいいときに交渉する

相手の気分がいいときは、多少難しい要求でも飲んでくれることが多い

相手の機嫌に応じて交渉を進めることで、信頼関係を築いていく

《『鬼谷子』摩篇第八》

《『韓非子』説難より》




■騙して成立させても長続きしない

言質だけとって交渉を成立させようと、相手を騙す交渉術がある

騙された相手はいずれ気づき、復讐心に火をつけることになる

騙された相手にとって「いいウソ」などありはしない

現代では詐欺罪に問われるので、騙して交渉を成立させないこと

《『戦国策』斉より》

《『易経』繋辞下伝より》

《『鬼谷子』権篇第九》

《『韓非子』亡徴より》




■脅して成立しても報復される

相手に恐怖を与えて受け入れさせようとする交渉術がある

恐怖心を煽られた相手は、脱したいと捨て身の報復に至ることになる

恐怖支配はこちらの立場が揺らいだときに容赦ない厳罰で帰ってくる

現代では脅迫罪に問われるので、脅して交渉を成立させないこと

《『論語』憲問第十四より》

《『鬼谷子』権篇第九》

《『韓非子』亡徴より》

《『呻吟語』第一章より》




■相手の本心を知る

交渉とは「やりたいと思っていることを実践するよう仕向ける」こと

相手の本心を知らなければ交渉は受け入れられないので無意味だ

感情的になり判断力を失っていると状況に左右されて本心は測れない

不明瞭な部分は探りを入れて相手から引き出し詳らかにする

《『論語』学而第一、為政第二より》

《『墨子』魯問より》

《『鬼谷子』反応第二》

《『韓非子』説難より》

《『呻吟語』第一章、第三章より》

《『言志四録』言志耋録より》




■本心を包み隠しているなら

本心が見えていても建前で本心を素直に認めない者もいる

一.建前に対して少し本心に寄せた言葉で相手の心を少しずつ開く

二.建前に合わせて不安を煽る

三.建前に乗らず黙する

四.本心の部分のみを肯定して褒めそやす

五.本心に釘を刺す

六.論破された体を装って本心を暴発させる

《『論語』為政第二より》

《『鬼谷子』反応第二、摩篇第八》

《『言志四録』言志耋録より》




■相手の本心に応じて交渉の仕方を変える

本心で喜んでいるなら心地よく受け入れられるように示す

怒っているなら挑発して激発させるように示す

頼りたいなら味方が得られるように示す

感情を激発させた場合は怒りがこちらにも向かうので速やかに離れる

相手が欲することを、欲する手段で説けばすんなり受け入れられる

《『春秋左氏伝』鄭の荘公小覇の時代より》

《『戦国策』趙、韓より》

《『論語』八佾第三、顔淵第十二、憲問第十四、季氏第十六より》

《『鬼谷子』揣篇第七、摩篇第八》

《『韓非子』説難より》

《『菜根譚』前集より》

《『言志四録』言志録、言志耋録より》




■着地点を定めておく

「将来完成される状況」を想定してイメージを持っておく

着地点が決まらない交渉など徒労でしかない

初めから着地点を定め、到達するためには何が必要かを考えていく

その描いた道筋に沿うよう交渉を進めていけばいい

《『春秋左氏伝』呉越争覇の時代より》

《『戦国策』斉より》

《『論語』陽貨第十七より》

《『中庸』知より》

《『鬼谷子』摩篇第八》

《『韓非子』説難より》

《『三事忠告』牧民忠告より》




■相手の意識にないことはまず種を蒔いておく

親しくなり信用されてから相手の意識に残るよう交渉事を話しておく

却下されてもいいので少しずつ吹き込んでいけば種に栄養を与えられる

状況が進展して時機が到来したときついに花を咲かせるのだ

《『戦国策』斉より》

《『鬼谷子』権篇第九》

《『政略論』第三巻三十五より》




■単独で局所優位を持つ対策

燃費がいちばん優れた自動車なら燃費に絞って交渉する

「自動車の中でいちばん燃費が優れています」

《『論語』為政第二より》

《『鬼谷子』権篇第九》




■組み合わせた選択肢で局所優位を持つ対策

燃費は一番でなく、他の強みと組み合わせたら一番の場合

「燃費のよい自動車の中ではいちばん加速性能がいい」

《『鬼谷子』権篇第九》

《『戦国策』韓、燕、宋より》




■他の短所とこちらの長所だけを話す

交渉とは取捨選択であり、相手の耳に入れる情報を分けておく

他の選択肢の短所を列挙したのちこちらの長所だけを話す

他の長所に触れれば「そちらもいいな」と思われる

こちらの短所に触れれば「それはどうもな」と思われる

相手が「この選択肢の長所は」と聞かれたときのみ教えれば信用される

《『春秋左氏伝』呉越争覇の時代より》

《『戦国策』斉、趙、魏、韓、燕、中山より》

《『鬼谷子』揣篇第七、権篇第九》

《『韓非子』説林より》

《『呻吟語』第三章より》




■相手の考えを操る

相手からよい意見を聞いたら声に出して同意すれば気を良くする

悪い意見を聞いたときは黙って触れないでおく

触れなければ相手は「これは何か悪いのかな」と慮る

黙っているのに進めようとする人は何を行っても進めるので距離をとる

《『論語』里仁第四、憲問第十四より》

《『鬼谷子』ハイ闔第一、飛箝第五》

《『韓非子』外儲説より》

《『呻吟語』第二章、第三章より》

《『言志四録』言志録より》




■情報はシンプルに伝える

こちらの都合でなく相手にとっての価値を簡潔に示す

相手は判断に迷わず共感を得やすい

情報は耳を通した文字より、目を通して一枚の絵で渡すようにする

相手に影響を及ぼしうる第三者を介して情報に信憑性を持たせる

《『戦国策』斉、魏、韓、東周より》

《『老子』より》

《『論語』里仁第四、子路第十三より》

《『鬼谷子』摩篇第八、権篇第九》

《『韓非子』外儲説より》

《『呻吟語』第二章より》

《『重職心得箇条』第十四条より》




■強気に出る相手ほど弱さを隠そうとしている

当初から強気に出てくるのは攻めこまれないよう虚勢を張っているだけ

有利な条件でも誘いに乗ってこない相手ほど自信があって余裕がある

《『鬼谷子』揣篇第七》

《『戦国策』趙より》

《『呻吟語』第三章より》

《『菜根譚』前集より》

《『言志四録』言志後録より》




■身の危険は未然に摘む

相手の言葉や態度が以前と少しでも異なれば、こちらに危険が迫る合図

できるだけ速やかに対策を講じ、速やかに現状から退くこと

《『戦国策』燕より》

《『鬼谷子』ハイ闔第一、抵ギ第六》

《『韓非子』備内より》

《『呻吟語』第三章、第五章より》




■交渉が終われば速やかに存在を潜める

相手が交渉を受け入れたら、速やかに相手から離れて存在を潜める

相手が遂行に失敗したときに全責任を負わざるをえなくなるからだ

相手が成功しても功績を誇らなければ次の交渉を有利に進められる

功績や名誉を挙げても独り占めしないこと

《『老子』より》

《『莊子』大宗師より》

《『鬼谷子』反応第二、内ケン第三、謀篇第十》

《『韓非子』説難より》

《『三事忠告』廟堂忠告、牧民忠告より》

《『菜根譚』前集より》




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