第5話 うざい、うざい、うざすぎる

 スマホに通知が来た。

[編集長]#ちょうし、どう?


「あ、編集長だ」

 編集長こと、美香からtwhisperのコメントがきた。そもそも千鶴が『ポエむら』を始めたのは美香に誘われたからだ。大学時代に知り合った美香は、子どもの頃からの文学少女で、今は出版社に就職している。『ポエむら』の親会社になるため、美香は就職を機に『ポエむら』を退会した。


[言葉の地図]#なんとか、やってる

と打ち込んだ。


[編集長]#なんか、企画で絡まれてない? 例のPotter5に?

 美香からの返信に、怒りがみなぎる。


[言葉の地図]#もう、本当、むかつく。辛口コメントするってわかってて参加してんだから、グダグダ言うなっての。辛口で書いたら、辛口で書かれる覚悟をしろ? ド素人が何様だよ。こっちは、大学時代から詩を書いてるっての。ボランティアで自分の時間を割いてやってんだから、どんなこと書かれても、ありがたく思えっての。お前のくだらない詩を我慢して読んでやってんだよ。


[編集長]#まぁ、ああいうやついるよね。ちょっと、頭おかしんじゃない? 良くあんなの相手にするね。尊敬するわー!(笑)


[言葉の地図]#まぁ、一応、企画主だからさ。コメント書かないわけにはいかないし。しかし、他もクズみたいな作品ばっかでさぁ、やっぱ、5回目となると、もう残りカスしかいないね。ド素人が登録すんなっての。適当に言葉並べれば詩になるって思ってんのかね。編集長がいた時のレベルが懐かしいよ。


[編集長]#まぁ、私らレベルを、他の奴らに期待しても駄目でしょう。だいたい、『辛口』企画なんてのがおかしいっつーの。辛口で批判し合う覚悟がないやつは、登録すんなバカ。ゴミ投稿だらけで、まともな投稿が埋もれるとか、もう『ポエむら』も駄目だね。なんとか、レベルを保ってるのは、言葉の地図の辛口企画のおかげだっつぅーの。しかし、こんだけ苦労してもメリットないんじゃ、やってらんないね。


[言葉の地図]#本当にそう。しかも、今日は今朝から最悪だよ。コーヒーはフィルターにセットし損ねるし、砂糖はぶちまけるし、会議で寝て怒られるし、残業はさせられるし、家での帰り道では、突き飛ばされて転んで擦りむいた。まじ、最悪なんだけど。


[編集長]#それは、災難だったね。


[言葉の地図]#精神的苦痛で、訴えてやりたいけど無理かな。あいつの登録情報とか、そっちで、わかんないの? 個人情報さらして、痛い目に合わせてやろうぜ。どうせ、ヒッキーだろ。登録したときのキモオタ写真に、詩をコラボして、アップするか。私を本気で怒らせたらどうなるか、覚えてろっての。


[Potter5]#いやいや、それは、俺のせいじゃないでしょう。そういうの、八つ当たりっていうんだけど。それに、お前のやろとしていることこそ、犯罪なんだけど。


「えっ! なに?」


[Potter5]#そもそも、辛口で返しちゃいけないって、ルールはないだろうが。辛口で書いたら、辛口で返される覚悟をしなければいけない。当然だよな?


 千鶴が画面を見て絶句する。


[Potter5]#なんか、お前らみたいな自称「辛口でコメントします」って言ってる奴らってメンタル弱いよね。メンタル強いやつ募集って言っておいて、自分は豆腐メンタルとか、オイオイって感じ。そもそも、自分は、一方的に辛口で書く権利があって、相手は黙って受け取れって、頭大丈夫か? あのね、コミュニケーションってのは双方向なの。言葉のやり取り、キャッチボールなの。言って、言われて、理解する。一応、『ポエむら』で投稿しているぐらいなら、『言葉』が持つ意味をちゃんと考えましょう。


 千鶴の頭が沸騰した。


[Potter5]#まあ、あの程度の『辛口』コメントしか書けないんじゃ、レベルがしれてるね。いくら『辛くても』まずいカレーはまずい。売れるには、『辛くてうまい』カレーを作らなくてはならない。言葉も同じですよ。ちゃんと、味のある『辛口』コメントをしましょう。まぁ、才能がないやつには無理かもしれないけど。


 千鶴は、思いっきり、スマホを壁に投げつけた。

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