恐怖は辛口コメント企画からはじまった

明弓ヒロ(AKARI hiro)

第1話 辛口コメント書きます

『最低限のレベルは確保していますが、言葉に新鮮さがありません。まるで、パープルガールズの歌のようです。今は既に、AKHも過ぎ、神楽坂、三宅坂の時代です。これでは、平成どころか昭和のおじさんが書いた詩です。今は令和です。もっと感性を磨きましょう。また、現状では、他作品と比べて突出するところがありません。あと一歩、前に踏み出す勇気を持ちましょう。詩とは時代を切り開くものたちに勇気を与えるものです。臆病な詩など、ただの死んだ言葉の塊です。他の人の作品を読んで、もっと勉強して下さい』


 ―― これでよし。

 千鶴は「OK」ボタンを押して登録した。会社から帰った千鶴の唯一の楽しみが「詩」の投稿サイト『ポエむら』だ。素人(もしかするとプロもいるかも?)が集まって自分の自信作を投稿し、互いに評価し合う。千鶴も100作以上投稿し、会員ランクはシルバーだ。


 『ポエむら』では、登録直後はブロンズ会員から始まり、『いいポ』を500個もらうとシルバー会員に、1万個もらうとゴールド会員になれる。ゴールド会員になると、『ポエむら』が発刊する詩集に載ることができるが、それはまだまだ先だ。

 シルバー会員になると、自分でテーマを決めた企画を立ち上げることができ、『オリンピック』、『令和』などのテーマを作って、会員から詩を募集することができる。


 今日、千鶴が立ち上げた企画「主が辛口コメント書きます」は、今回で5回目だが、いつも、企画開始後30分で規定人数の100名が埋まるほどの人気企画だ。

 みんな、なれ合いのコメントには辟易している。かと言って、他人の投稿作品に、本音を書き始めたら、収拾がつかなくなる。そんな、辛口に飢えたユーザーに、刺激を与えるのが、千鶴の役目だ。

 時には、ちょっと書きすぎかな、と思うこともあるが、書かれた本人だけでなく、まわりの参加者も、千鶴の辛口コメントを楽しみにしている。


 ―― 今回も、思いっきり『辛口』が書ける。

 千鶴は、一人ほくそ笑んだ。

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