第10話 大問題
始めに気付いた体調不調は、身に覚えのない下痢が続いたことだった。
それからは矢継ぎ早に体に異常が発生した。
めまい,嘔吐,鼻血,脱毛,発疹、脱力感。
とにかく、ありとあらゆる不調が一気にオレを襲い始めた。
オレもとうとうゾンビにでもなるのかと絶望しかけたが、すぐそうではないだろうとの考えに至る。
症状的に、ゾンビになるプロセスではないからだ。
まあ何にせよ、生命の危機であることは間違いなさそうだ。
外は死体だらけの世の中である。何かまずい感染症とか拾ってしまっていても不思議じゃないからな。
そこでオレは思い出す。
時々気まぐれで連絡を取るコミュニティのひとつに、山田というお人よしの医者がいるのだ。
早速無線機で連絡を取り、症状を告げる。
『実際に診察してないし、採血等を行ってないから何とも言えないなあ』。
(ちっ。この役立たずめ。)
『何にせよ、重篤そうなのは間違いなさそうだね。一刻も早く医者が存在する最も近くのコミュニティに向かって診察を受けるべきなんだけど、伝染病だった場合は集団への接触は控えるべきだからなあ』
「……オレに死ね、と?」
『うーん、そう言うわけではないけど……。うん、聞くだけ聞いてみる。医者をそちらに向かわせるか、どこかで落ち合えるように頼んでみようか』
やはり、お人よしの山田に聞いて正解だったようだ。
普通はたった一人の為に貴重な医者を派遣とかは考えないだろうしな。
このご時世、手に技術や知識を持つ者は貴重なので、コミュニティ間を移動して問題解決している状態らしい。医者もそのひとつだ。
元々移動式診療所……俗に言うドクターバスが存在していたので、比較的早期からその動きがあったとか。
オレからすれば大移動してコミュニティを合併すればいいのにと思うのだが、“あの日”からまだ1年も経っていない。色んな理由で、まだその時期ではないのかもな。
『……と言うことで、キミはどこに居るんだっけ?』
「〇〇県の南、〇〇市だな」
『〇〇県の南……』
山田はそう呟くと、しばらく沈黙した後に言った。
『△△市□□町って知ってるかい?』
「そりゃ、隣町だな」
オレがそう答えると、再び沈黙する山田。
なんだってんだ?
『残念だけど、そこには人を出せないね』
はあ?
『こちらに流れて来た情報を分析するとね、その町では……いや、その町でも、か。大問題が起こってると推察されてるんだ』
「いや、特に気が付かないが」
その大問題とかが隣町で発生しているなら、流石に気付くだろうよ。
なに言ってんだコイツ?
『……言いにくいけど、これでキミの体に何が起こってるか推察できたよ』
なんだ? 嫌な感じだな。
『はっきり言うね。キミの症状と地域の現状を見るに、可能性が高いのは……』
そして山田は、一呼吸置いてから言葉を続けた。
『中度から重度の、放射線の被ばくかもね』
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