第三話 ブレイク・モンガー
赤い土煙を上げて迫るのはビルド・ワーカーだ。遠くからでもかなり大きいのが見て取れる。
「何か分かる?」
「余り見たことないですね……もっと近寄ればわかるかも……」
併走しながら徐々に近づいてくるビルド・ワーカーにルシルはどう対処するべきか思案した。何者なのか目的はなんなのか、見当もつかないのだ。
このまま進めばハルミドなのに!
同じ難民なのか、破壊されていないビルド・ワーカーがまだ残っていたのか。テラリス側のビルド・ワーカーはリスタル攻略に回されているはずだ。だとすれば、あれは……?
「どうするんですか?」
リコットに聞かれ、ルシルは全員を見回した。不安そうな顔で判断を仰ぐ彼女たちのため、危険なことは出来ない。
「このまま進みましょう。あれが何であれ、あたしたちはハルミドを目指す。いざとなればこのウォール・バンガーなら振り切れるわ」
「そうですね、余り近寄らせないようにしたら……」
そうですわね、うん、とみんなが同意した、その時。
ドンという大きな振動が車体を揺さぶった。右側面に大量の土砂が跳ね上がって、車体に降り注ぐ。
「な、なに?」
「ヤバい! あれ、ロケット弾だ!」
ルシルがカメラを向け、それをズームする。ビルド・ワーカーは小さな四つの車体をクロスにつなげ、その中心に運転席、それは改造されたものではなく四角い小さなむき出しだった。前に二本の巨大なポールが立っていて、その後ろにクレーンが二つ、クレーンの先端には太いワイヤーに吊された鉄球が付いていた。改造され車体が連結されたウォール・バンガーよりもまだ大きい。
「あれは確か……ブレイク・モンガー?」
リコットがのぞき込む。
「最近になって増えてきたビルド・ワーカーです。古い街を壊して整地するために大きな鉄球がついているんです。前にカタログで見て……本物は初めてですが……」
そのブレイク・モンガーの車体の上に迷彩服が数人、乗っていた。何人かが肩に筒を掲げ、こちらに狙いをつけていた。
「うそだろ? また来る!」
シエラが悲鳴を上げる。ルシルは大きく左にハンドルを切った。頭のカメラを掠めるようにして、ロケット弾が飛んでいき、その先で地面を爆発させる。
「振り切れますの?」
クロアが聞く。どうするべきかルシルには分からなかった。アクセルをべた踏みし、車体を加速させる。相手との距離が若干開く。だがそこにまたしてもロケット弾が撃ち込まれた。
どっと地面が弾け、ウォール・バンガーが滑った。
「いけない!」
ハンドルを切って車体を立て直す。その先に墓穴があった。すんでの所でそれを避けるが、
「みんな、武器を取って! 戦うしかない!」
「戦うったって……」
シエラが悲痛な声を上げる。ローエは怯えてしまってシエラにしがみついて親指を吸い始めた。
「やるしか、ないんですね……」
「仕方ありませんわね……」
それぞれが銃を手にして、のぞき窓から様子を伺う。
ルシルはウォール・バンガーを相手に向けて、両腕を掲げて威嚇するようにして対峙した。
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