第五話 雄《オス》のように犯して
壁に反射するスタンドライトの明かりは、壁で反射しながらも硬質なまぶしさで空間を満たしていた。
リコットは死んだように横たわる。内で爆ぜたものの衝撃が余程大きかったのだろう。小さな胸の上下とまだ気色を失わない肌だけが彼女の存在感を示していた。
足元から嘗めるように全身を見る。沸き上がってくるざわざわしたもの。それが心臓を直接撫でるような感覚を与えた。
そっと彼女の両膝を立たせてその間に入ると、親指で痴裂をゆっくりと広げた。まだ滑りを失っていないそこは、果てて尚、艶かしく蠢き、その時に漏れ出たものが尻の下に染みを作っていた。
皮で半分包まれた
心臓に爪を立てるような興奮と焦燥。
ふと自分の股間へと視線を落とす。そこにあるのは淫らに三角州を作る黒々としたヘアと、羽化したばかりの蛾のような黒ずんだ
ため息を喉元で押し殺し、中指を一度しゃぶって唾液で濡らし、彼女の源泉への入り口へとあてがった。ぬるっとした感触と共に肉の中に埋没していく。それでリコットの体は僅かに震えた。
根元まで埋まった指先に肉壁と
ルシルの心臓が強く脈打ち始め、頭に籠もった熱が意識を徐々に沸騰させる。ふっふっと鼻息が塊になって繰り返された。
もう一度、奥まで指で付く。襞をかき分けるような感触が指に絡みついた。もう一度、もう一度、それを何度も繰り返す。再び溢れ出した体液が糸を引き、ぴちゃぴちゃと音を立て始める。
リコットがはあっと大きく息を吐き、膝を閉じ始めた。上半身はうなだれたままで、意識が戻っているような感じはない。
何度も何度も指を前後させる。彼女の肌の気色が少し強みを帯びたような気がした。それでルシルの興奮も強くなってきて、自分の股間へと残った片手を伸ばした。
同じように中指を自分の中へと向ける。
不快な記憶を呼び起こす異物感。同調させるように両方の中指を動かしてみる。しかしルシルの中には異物感以上の何かを得られることはなかった。今度は指を根元まで入れ、中をかき回してみる。それでもそこから感じるものは何もない。
リコットはこんなに感じているのに……。
仕方なく引き抜いた指を陰核に当てて刺激する。そこから何時もの快感を拾い上げながら、二つの指を速度を上げる。
体中が鋭敏になってくる。自分の吐息や空気が肌を撫でるだけでルシルの女の部分がジクジクと疼く。
はあっ、はあっ。
指の動きに合わせて次第にルシルの腰が前後し始めた。まるでそこに
はあっ、はあっ。
熱を帯びた体に陰核から広がってくるうねりが大きな波となって駆けめぐる。それは皮膚の内側で反射し、他の波と重なり、次第に巨大な三角波を作り始めた。巨大な波は次第に渦を巻いて、ルシルをめちゃくちゃに乱してゆく。
そしてその大波はついに防波堤を超えてルシルを飲み込むようにして頭の中を突き抜けていった。
「はふうっ!」
ため息のような悲鳴を大きく吐き出して、ルシルは果てた。リコットのような派手な爆発はない。どちらかと言えば淡々としていたルシルの
全身の力が抜けて、リコットの上に崩れ落ちそうになるのを、何とか両手で踏ん張って支える。激しく息をする度に、それがリコットの顔に吹きかかって髪を揺らした。
「くっ、くくっ……」
涙が溢れてくる。それは悔しさだった。
何で……どうしてあたしには……。
全然足りなかった。リコットを愛してやりたいのに、決定的なものがない。こうして絶頂にまで達してから、ルシルは思い知ることになった。
頭を過ったのはあの雑誌に載っていたミキシング・ジェンダーの女性だった。女の体でありながら逞しい生殖器を勃起させ、相手と深く繋がっていた。それは肉体的には元より心や感情の繋がりをも感じさせられた。
もし、あたしが男だったら……ペニスがあったら……思う存分、リコットを犯してやるのに……。
あの下卑た獣のような男たちを思い出す。自分を犯したようにリコットを自分たちの欲望のままに凌辱した男たちがいる一方で、ルシルにはどんなに彼女に思い入れをしても、ひとつになる手段がない。
精神的なつながりだの、心の触れ合いだのといった言葉は、ルシルには何の慰めにもならなかった。
リコットの上に覆い被さるようにして、腰を振ってみる。薄く開いた唇を嘗めるように重ね、胸を押し上げるように揉み上げ、股間から伸びた肉棒が二人を繋げていることを想像しながら、ルシルはそこから快楽を得ているかのように無心に腰を振った。
彼女の耳の後ろから首にかけて唇を這わすと、リコットがゆっくりと動いて腕をルシルの背中に回す。
リコット、リコット、リコット……。
頭の中でその名前を叫びながら、彼女を突き上げる。下腹部が擦れる度に、女の秘部が刺激された。それは自慰とは明らかに違う快感をもたらせた。先程と同じように体の中で波立ち始めたそれが、徐々に大きくなっていく。
リコット、リコット、リコ……はふうっ!
一度、達した直後だからだろうか。今度は三角波のうねりが防波堤を乗り越えるのに時間はかからなかった。
ルシルの体は海老反りになって痙攣し、それに耐えるのに歯を食いしばった。長いそれが終わってようやく肩で息をしながら、ゆっくりとリコットの側に体を横たえる。
知らない間に汗が頬を伝っていた。体だけでなく周囲の温度もかなり上がっていて、寒さは微塵も感じない。
急激に睡魔に支配されて、ルシルはそれに抗うことは出来なかった。
ただ、やはり心の中に沸き上がってきた怒りにも似た絶望感だけはぬぐい去ることは出来なかった。
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