第12話 窓際紫陽花のメール交換

歌が上手くなる方法をパソコンのメールで桜木遥人に確認中。

私は、気が気じゃない。

どんな返事が来るんだろう…。

しかも実はメールしたのも初めてだ。

ちなみにメールアドレスは桜木遥人から聞かれた。

例の二人で喫茶店に行った時だ。

でも、メールのやりとりは一度もしていない。

用事ならメールしやすいよね、いいよね…と思い、

「歌が上手くなるにはどうしたらいい?」

この文章を採用し、メールした。



ただ、返信を待つ時間が気になってしょうがない。



そわそわ、そわそわ…。



返信あったーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!



光の速さでメールを開くと

「とにかく練習かな。」



えっ、それだけ…。

どうしよう…。

喋るときはあんなに饒舌なのに、メールは一言…。

桜木遥人、やっぱりわからない…。

時に桃のように甘く、時にレモンのようにすっぱいのか?



「一応、テープに録音して声量が小さいと思ったら上げたり、歌がうまくなる運動や、腹筋を鍛えたりしてるよ。」

私の方が断然文章長い…。

でも、一応伝えておこう。

すると、返信が来た。



「そっか。日向なら大丈夫。」



なんだろう…。

さっきの素っ気ない一言からの、この返信。

相変わらず一言ではあるけど、さすがに

この返信されて、喜ばない人はいないだろう。

というか、すごく嬉しい。



最初は桜木遥人に言われて、何となくボーカルになって。

自信ないままバンドに参加した。

それを橘さんに見抜かれた。

で、悔しくて歌が上手くなる努力をした。



でも、本当は気づいてた。



本当は、桜木遥人に褒めてほしかった。

橘さんと、私がわからないバンドの話してるのは嫌だ。

真面目に皆バンドの練習してるのに、こんな不埒な気持ちでいいのかな、と思って気持ちに見ないフリしてた。



あと、自信なくバンドに背を向けてる私も嫌い。



だから私は、窓際の向かいの家に紫陽花が見える自分の部屋のパソコン前で誓った。



「桜木遥人が好き!バンドも真剣にやる!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る