第4話 さくらんぼの歌姫

「ところで、桜木くん。どうして今日は私を誘ったの?」

「あ、遥人でいいよ。」

「…さ・く・ら・ぎ、くん。」

「…日向って真面目なんだな。ま、いいけど。

で、誘った理由だっけ?

ちょっと前にさ、

音楽で合唱したじゃん。

で、日向と俺、横に並んでたわけよ。」

「そうだっけ?」



ちなみに、私は声が低い。

合唱と言えば、常に女声パートでは低音のアルト。

音楽の合唱での並び順は、右から順に高音パートの人から並ぶ。

そして、私は女子の中で一番左で、男声パートの一番右の人と隣になる。

しかも男子と横に並ぶ女子と言えば、

アルトの中でも一番低音の声と言うことだ。

つまり桜木遥人は私と逆。

男性パートで一番高音と言うことなのだろう。



「そうなんだよ。

で、めっちゃ声でかいなこいつ、

って最初は思ったわけ。」



失礼な。

私は自分の声が大嫌いだ。

この世で、虫の次ぐらいに嫌いかもしれない。

だけど、歌は好きだ。

むしろ自分の声が大嫌いだから、

メロディに乗せて声を自然に演じて変えることのできる歌が好きなのかもしれない。

そのあまり、大声で歌っていたのだろう。



「それはごめんね。うるさかったよね。」

「いや、そうじゃなくてさ。

まあ、声でけーからつられて

自分のパート歌えないな、

とか思ってはいたんだけどさ。

てか、そもそもあんまいつも

真面目に歌ってないけど。

で、聞いてるうちに

こいつ歌うめーじゃんって思ってさ。

そしたら、なんか話してみたくなったんだよ。」



「…ふざけてんの?」

「全くふざけてないけど。」

「私、歌うまいなんて言われたことないよ。」

「誰かに聞かせたことあんの?」

「ないけど…。」

「それじゃ、言われないだろ。」

「…そっか。」



悔しいなあ。

私が本当に歌がうまいかわからないけど、

それを最初に見つけたのが桜木遥人なんて。

なんかむず痒い。







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