此処は何処?私は誰?

えんかすいそ

第1話 ぼやっと歩いている時。

 バイクも車も持たず,周りに追い越されながら歩いていく。笑いあう学生,何かを待つ釣り人,忙しない車の列,それらから逃げる小鳥,物ともしない渡り鳥etc...

 結局はいつもと同じ道を同じ景色で歩くだけ。慣れたことをするだけ。くだらない毎日。今日の就寝も静かなものになるだろう。


 「・・・」


 何を血迷ったんだろう。何も考えずに零れた言葉に思考を持ってかれてしまった。新しい刺激と勘違いした?忘れていた好奇心を思い出した?どうでもいい。どうでもいいはずだ。こんなことを考えるだけ時間の無駄だ。社会の役にも立たない。


 だけど,だけれど。思ってしまった。零してしまった。迷ってしまった。悩んでしまった。忘れられなかった。だから私は考えることにした。答えが出なくても,解が無くても,導かれることにした。


「“いつもと同じ”ってなんだろう。」


????????


 確かに同じように鳥が飛んでいるが,昨日の雀が燕になった。確かに見てる空は同じだが,昨日あった雲が何一つなかった。

 よく見ると,すれ違う学生の並び順が違う。犬を散歩させてる人の服が違う。杖を突いて歩く人と挨拶する場所が違う。


 思い返すと毎日違う景色だった。これを“いつもと同じ”と一蹴りしてしまうのは間違いなのかもしれない。これを正してくれる人はいないので,完全回答はできない。ならば私が間違いと言えばいい。


 さっきから同じだと思ったことから見出している,ということは同じであることを仮定として否定している。つまり,その仮定を肯定すればいいことになる。

 雀も燕も空を飛ぶ鳥であり,雲が無くても空は地球を覆う一つの空しかない。学生の並び順が違っても同じ学校の生徒ではあるし,犬を散歩させている人の戸籍は同じはずだし,杖を突いて歩く人とは変わらず挨拶をした。

 さらに言うと私も私のままである。こんなにも近くに肯定できる素材があるのだから,この事象も問題なく解決したと言えるだろう。


 しかし,これで解決したと言えるのは“いつもと同じ”を肯定する事象であって“いつもと同じ”の合否ではない。

 ではどうやって合否を決めるのだろう。これは簡単だ。『解無し』と回答すればいい。間違ってもいるしあってもいる。この2つを認めるならば,矛盾を認めることになってしまうので,答えは出ない。これは会議ディベートではないので,必ずどっちかの味方にならなければならないわけでは無い。


 数学ならこれでこの問題は解答したアンサーとして次の問題にとりかかっても問題ない。見直しをしてもかまわない。これは数学ではないので,もっと事例並べて見ている景色を深く視るのもおもしろいだろう。

 だが,返される言葉アンサーは『考え直し』だろう。理由は単純だ。まるで問題文を見ていないからだ。


 『“いつもと同じ”って何。』に対して『正解でもあり不正解でもある。』と答えてるのである。誰が見ても聞いても会話が成立してないと解る。情けの1点も貰えない主述の崩壊である。お米を炊いてナポリタンができている。


!!!!!!!!


 それでも一度出した答えを丸めて捨てて挙句燃やすのは勿体ない。せっかく頭を使ったのだから利用していこう。

 正解と不正解の違いは何だろう。見ているものが同じなのに見たものが違うのはどうしてだろう。


 からではないだろうか。鳥をと種が違う。空をと雲が違う。学生をと並び順が違う。散歩させてる人をと服が違う。挨拶をと挨拶した場所が違う。


 つまり見ることに妥協しなければ違う面が現れる。霊長類であることは同じであってもゴリラと一緒にされたくないヒトはいる。

 どっちがより良いかは今回妥協することにする。そろそろ考えることも疲れてきた。『霊長類であること』と『ヒトとゴリラは違うこと』はどっちも大切な現実である。


 それでは解答欄に記入しよう。

 問:“いつもと同じ”って何。

 答:いつもと違う見方が見つかる前に妥協したこと。


 答えが出た。もうやめよう。もう少ししたらまた頭と手を使うのだから,体力は温存しよう。今日はマイクロプラスチック,順列,プレート・・・・・・


********


「やあやあ,きょうも精が出てるかい?うわ,またうどん?そんなだから痩せてるんだよ。女子ががっかりするぞ?『満足できなかった』って。肉食べなよ肉。僕のはあげないけどね。(あーむ。んん!美味い!)」

「いいじゃんか好きなもん食べて。ここのかき揚げは美味しいんだぞ。玉ねぎの甘さとかゴボウの噛み応えとか褒めるところはたくさんあるんだぞ!(サクッ!)」

「肉揚げたほうが美味しいもーん。ここの一番人気が唐揚げであることがゆるぎない証拠!はい証明終了!Q.E.D.(ザクッ!もぐもぐ。)」

「肉食べるだけで太れるわけでもないだろ。私にはここの唐揚げは味が濃すぎるの。なんでそれが一番人気なのか,私は不思議でたまらない。(すすすっ。もぐもぐ。)」

「偉そうにどうも。啜るのが下手なお方。音だけで吸えてないよ。僕がお手本見せてあげようか?」

「やらんぞ。お前はお前が買った唐揚げ親子丼で満足しろ。」

「僕が買ったわけじゃないよーだ。」

「また貢がせたのか!?なに?娼婦にでもなりたいの?」

「殴られたいの?言葉は選んだ方がいいよ?」

他人ひとが食べてる時に初っ端から下ネタで会話始める人間の言う言葉だとは思いませんなぁ!」

「気づいてたのかよ!だったらそれっぽい反応してよ!ちょっと恥ずかしかったじゃんか!」

「お前に恥ずかしいと思える余裕があったとは。これは失礼した。(すすすっ。もぐもぐ。)」

「これが人間の言う台詞ことばかよ!ちょっと待ってろよ!」

「いや,どこ行くんだよ。まぁ食べ終えてないからいいけど。(すすすっ。シュクッ。もぐもぐ。)」

「お待たせ。ちゃっと待っててくれたようだね。」

「かき揚げうどん買いに行ったのかよ!まだ食べ終わってないだろ!」

「かき揚げ美味いけど,唐揚げには負けるな。(サクッ!むぐむぐ。ズズズズッ!)」

「私に対する当てつけかよぉ!」

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