考察する少女α

梦現慧琉

α-0. 序論


 恋をしたことがない。

 それがわたしのコンプレックス。

 わたしの強烈な劣等感。

 恋をしたことがないのだ。

 恋をすることができないのだ。

 というか。

 そもそも、恋って何?

 それすらわからない。

 ただの好きとは違うこと?

 家族や友達が大切なのと違うこと?

 他人を好きで好きでたまらなくなること?

 片時もその人のことが頭を離れなくなること?

 相手を想うだけで胸がときめいて仕方のない状態のこと?

 ずっと誰かと共に居たいと感じるとか、なんでもないことでも一緒に話したいとか、休日に連れ立って何処かに遊びに行くとか、手を繋ぐとか、キスをするとか、その先へ進むとか……あるいはそうなることを望んでやまないとか。

 にっちもさっちも、一進一退、つかずはなれず。そういうことが恋なの?

 恋って、何を言うんだろう。

 愛とは、明確に違うけれど。

 告白したいほどの激情とか。

 告白されたいほどの、願望。

 皆目、見当もつきやしない。

 わたしには。

 一目瞭然の定義が欲しいと思ったりする。

 こう見えても普通の大学生を謳歌しているわたしの身の回りでは、恋の話には事欠かない。過去の経験から未来の予感、最近の発見まで、あふれかえっていると言っても間違いではない。いわゆる恋バナだ。雑談の一種である。

 楽しいはずの歓談。

 そんな恋バナが始まったとき、交わされる意見はいくつかに大別できる。一つは、「やっぱり恋は良い」。他には、「恋なんてするもんじゃない」。そして、「他人の恋バナは鬱陶しい」。どれにもわたしは当てはまらない。だって恋がわからない。

 どうやらみんな、恋の体験は在るらしい。

 初恋を既に経ているようだ。

 どきどきして、わくわくして、きらきらして、ぐるぐるして。

 がっくりして、どっきりして、げんなりして、はんなりして。

 恋した確信が在るのだろう。

 わたしにはその確信がない。

 いつだって、一人の少数派。

 意見を求められないように、端っこの方で申し訳なさそうに縮こまっている。うっかり矛先を向けられてしまったときは、愛想笑いで適当にお茶を濁して切り抜ける。真面目になっても、恋についてのわたしの発言なんて的を大きく外しているものだから、みんな白けてしまうだろう。折角盛り上がっているのに、それではいたたまれない。

 そんな風に、愛で笑いながら、恋について悩んでる。

 なんで、わたしには恋がわからないのだろう。

 してみたくないわけではないし、ラブコメの漫画もアニメも好きだ。高橋留美子先生の作品なんて、大ファンだ。うる星やつらもめぞん一刻も、ちょっとホラーな人魚の森も、今の連載に至るまで追いかけている。

 色んなことに言えるよう、聞くのや見るのと、やるのとでは大違いなのだろうか。

 ……みんな平気の平左で恋してるのに?

 それじゃぁ、わたしは、できそこないか。

 劣等感とした表現は正解だったと思い知る。

 思い知って……ため息を静かにつく。

 黒板へ目を移して、先生の描いたよくわからない図をルーズリーフに写し始めることにした。哲学の授業は退屈で、わかるかわからないかの平均台を、バランスを取るようにちまちまと進んで行く感じだ。眠くならないために、頭を動かして時間を過ごす。毎週金曜四時限目。すっかり板に付いた、週末の作業だ。

 さてと。

 今さらだけど、名乗っておこう。

 いや。

 今さらだし、どうせこんなのただの独り身の独り言だし、名前なんてどうでもいいかな。うん……個人を特定しなくても、こんな話はまかり通る。読者か聞き手が居たとして、きっとそこに興味は惹かれまい。ぶっちゃけ、特定されたらかなり恥ずい。

 だから、数学みたいに仮定するだけに済ませておこう。

 わたしはアルファ。

 考察する少女、α。

 こんなのは、それで十分事足りてしまう、些細な恋バナもどきなんだから。

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