思わぬ報奨金
黒装束の騎士たちは金色の飾りをつけている。黒に金といえば、王国の精鋭部隊の甲冑と決まっていたが、兜と胸当て、肩当てにあるはずの王家の紋章は黒く塗りつぶされていた。
「ひょっとしてさ、あれで隠密部隊のつもりかな。謎の黒騎士団って」
乗っていた白獅子に語りかけても答えがあろうはずもない。
町なかの店はどこも開いていなかった。焼けなかった店も鎧戸を閉めている。ガストンは壁に耳を当ててみた。なかでひそひそと話す声が聞こえた。まだいるかもしれない生ける
ガストンの乗った白獅子の後を黒騎士団が進んでくる。気味が悪いが、ガストンは振り向かない。気づかぬ
ギルド会館の前でガストンは白獅子の背から降りる。そのとたんに、白獅子は子猫の姿になった。
「ああ、町中だとそっちのほうが目立たないわな。おまえ、頭いいな」
ガストンは白猫を抱きかかえ、ギルド会館に入った。
小柄な受付嬢が笑顔で迎える。
「いらっしゃいませ。今日はどんな御用ですか?」
ソフィアの同僚だ。ガストンは名前を知らなかったが、いまつけている名札を見て、ライザと分かった。
ガストンは槍が使えるだけではない。字が読めるのだ。
「そっちに伝わってるかどうか知らねえが、女魔王討伐のクエストが終わったんだ。報奨金を受け取りたい」
「ガストンさんですね。
「ああ。そうだ。伝令ってのも金になるのか」
「ええ。大切な情報でしたので」
「で、幾らだ。飯代ぐらいにはなるんだろうな」
「金貨一袋です」
「ほう? そりゃ、大金じゃねえか」
「この額には守秘義務契約の代金が含まれています」
「秘密を守れと」
「ええ。今日のことは誰にも言ってはいけません」
ライザは唇の前に右の人差し指を立てて言う。
「そりゃ、別にいいぜ。誰かに自慢しようにもオレには聞いてくれるやつもいねえからな」
「では、この書類にサインを」
ガストンは自分の名前を書類に書き込んだ。彼は読めるのだけでなく字が書ける。ぜんぶ、金欲しさのために学んだものだ。冒険者はみんな自分の名前ぐらいは書ける。書けないと書類が完成せず、金がもらえないからだ。
手続きを終えて、金貨の入った革袋を受け取ると、ガストンは、またぞろ丁半博打がしたくなった。しかし、賭場も今日は開いてはいない。となれば、金の使いみちは限られていた。
「今日、ここの食堂は開いてるかね」
「はい。いつものメニューでやってます」
ライザが言う。
「こいつは入れないよな」
抱えている白猫の姿をしたものを押し上げて言うガストン。
「入り口横にペット専用のお食事場所があります。そこまでならどうぞ」
「そうか。じゃあ、むしろ、オレもそこで飯食わせてもらうわ。オレなんて動物と大差ねえからよ」
笑ってガストンは食堂に向かう。ギルド会館の食堂は高くて量が少ないことで有名だったが、ほかの店が開いてない今日はありがたい存在だった。実のところ災害や戦争時の時に食料配給場所でもあるから割高料金になっているのが、そんなことガストンは考えたこともない。冒険者というのは、目先のことにしか目が向かないものだ。
食堂には先客がいた。黒騎士団の面々だ。鉄兜と
こんな不潔な御仁たちがいるんだ。こいつが入っても怒られねえわけだよ、とガストンは思ったが、そんなことを口に出すわけにはいかない。王の権力を
「ペットのお食事処」と書かれた小部屋の扉を開ける。すると期せずして、背中に負っていたオリハルコンの短槍が黒騎士団の面々に見えてしまうことになった。
黒騎士団の男たちがどろめく。それを聞いてガストンの耳がピクリと動いた。危機を感知したのである。しかし、今ここで逃げ場はない。
「失礼ながら、槍の無双ガストン様とお見受けしました」
上座である入り口がいちばんよく見える席に座っていた男が言う。
『槍の無双』はガストンが若い頃、自分でつけた二つ名。この歳になってそれを聞くと顔から火が出そうになるが、金ピカの槍を担いでいるジジイなんてめったにいないから言い逃れようもない。こいつぁ、やべえな、とガストンは思う。ゆえに言った。
「いかにも。して、何が私に御用ですかな」
格式ばった返答。向こうにこれ以上、興味をもたれたくなかった。他人の顔をして通り過ぎたい。
「やはり。先程、外でおみかけした時ももしやと思っておりました。私、ギルバート・オルコットと申します。お会いできて光栄です。ぶしつけながら、よろしければ、共にお食事でもいかがでしょうか。二度も魔王と戦い、生還なされたガストン様のお話を聞きたいと私も、そして部下もみな願っておりまして」
ギルバートはこの騎士団の団長だった。
「悪いが、獣連れでしてな。皆様とご同席するわけには……」
我ながらうまい言い逃れだとガストンは思う。さっき、ライザと話した内容の通りだし、相手の顔も潰さない。しかし……。
「では、特別に、その白い獣も同席できるよう、ここのギルドにお願いしましょう」
ギルバートは言う。勘弁してくれよ、とガストンは思う。こんな奴らと一緒だったら、せっかくの飯が不味くなっちまうと。
ギルバートの部下が飛び出し、あっさり許可をとりつけてきた。国家権力を背負ってる奴の言い分だ、町税代行機関でもあるギルドが逆らえないのは当然のことだった。
「どうぞ、どうぞ、ご遠慮なさらず」
ガストンはしぶしぶ食堂のなかに入る。
そこで彼は思い出したくもない昔の話をさせられることになる。
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