冒険者の道

 黒字に白く染め抜いた不死鳥。クラリスに代わってオリヴィアが振る冒険者ギルドの旗印である。たとえこの生命尽きるとも必ず成し遂げるとの決意。不屈の精神の象徴。だが、ガストンは知っていた。もしも死ぬほどひどい目にあったなら、少しは懲りなければ本当に死んじまうんだと。伝説の鳥と違って、人は死んでしまえばそれっきり。苛烈を極めた魔王大戦の生き残りであるガストンは、それが身にしみて分かっている。

 それでも、今は阿呆あほうになるべき時だった。正義、誇り、家族を守るため。そういう大義もあることだし、クエスト報奨金の裏付けもある。これでやらねば冒険者ではない。なのだが――。

 普段は町の酒場で賑やかしをやってる楽団が、今日は戦のための行進曲を奏でている。軽快なメロディーから激しい曲調へ。そして、歩調に合わせて太鼓の打ち音を鳴らす行進曲へと変わった。軍歌である。

 軍隊のかわりに魔王を討伐すること。つまり、今回の仕事は完全に王国軍の下請けだなとガストンは気づく。気づくと一気にバカバカしくなった。高い税金を取り立てておいて、肝心なときに冒険者にことの収拾を図らせる王国ってのはクソじゃねえかと。

「悪ぃけどよ、オレは別の道から行かさせてもらうわ。なにかあったら、あの女大将に伝えてくれ。オレは傭兵団ようへいだんに入った覚えはねえってよ」

 ガストンは近くにいた初めて会った冒険者にそう言うと、戦列を離れ、森のなかに入った。道なき道こそ、冒険者の道だ。

「オレは自分の好きにやらせてもらう」

 ひとりごちる。彼のよく見知った森が、彼がたくさんの罠をしかけた森が広がっている。ガストンには自分にしかできない戦い方。勝ち方がある。

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