リーダー剣士アレックス

「おお、じいさんもいるのか。久しぶりだなあ」

 その声は、かつてガストンが所属していたパーティのリーダー。アレックスだった。アレックスの年齢はガストンの半分ぐらいである。遠くにいてもそうは感じさせるほど長身の男だった。アレックスの今日の装束は彼の身長と同じ長さの剣。その柄の色は赤かった。柄の色に合わせたのか兜も鎧も真っ赤に塗られている。縁取りに金が使われており、ピカピカ光っていた。

「ああ、久しぶり。元気だったかよ、剣士アレックス」

 軽く手を振りガストンは言う。相変わらず派手な格好してやがると思ったが口にはしなかった。

「息災そのものだった。けれど、もうダメかな…。いま、地獄の大鍋の蓋が開いたところだ」

 墓地を覆う金属製の蓋が内側からこじ開けられ、黒い煙がもうもうと上がっている。そして、そのなかにあるのは『死』だった。煙のなかから次々と骸骨剣士スケルトンが蘇ってくる。さらにその奥に赤い光が幾つも見えた。さらに大物が控えているということだ。

「俺たちは帰る。そこの髑髏どくろを検収してくれ。20個ある。銀貨20枚を早くくれ。おれたちはもう帰るんだ!!」

 アレックスが大声を出す。リーダーの役割はパーティーの安全と利益を守ること。いいリーダーであるには違いない。

 下っ端の若い衆が頭蓋骨の入った網を持ってクラリスのもとに来た。彼の装束も赤を基調としていた。アレックスを簡素にしたような格好だ。

「流行ってんのか。それとも制服ユニフォームか?」

 ガストンはつい口に出してしまった。それがアレックスには聞こえなかったのか、言葉を無視して黙り込んでいる。

 クラリスはたいして確かめもせず、銀貨20枚を渡し、クエストの成果物である薄汚れた頭蓋骨を受け取った。

「じゃあな。あんたらもいいところで帰ったほうがいい。こりゃ、もう冒険者風情が出る幕じゃねえ。軍隊の仕事だ」

 言うが早いか、目配せをして、パーティーの一員である魔法使いに転移魔法を使わせた。魔道具の準備から始まり魔力消費的にも莫大なコストがかかるが、離脱のためには最適な方法である。

 アレックスのパーティーメンバーは一箇所にまとまる。足元に金色の光で魔法円が描かれ、地面から光が昇っていく。その光が彼らの全身を包むとき、転送魔法は実行され、彼らは町に一瞬で帰還する――はずだった――しかし、魔法円は突然、輝きを失い。魔法使いは倒れた。

「おい、大丈夫か、お前…」

 倒れた魔法使いの男に駆け寄るアレックス。大きなツバのある黒い帽子。その下にあったのは血色を失い真っ白になった顔。そして、口から大量の血を流していた。

「おい、お前…」

 魔法使いは絶命していた。完遂できなかった魔法の揺り戻しのせいだった。魔法安全装置マジックブレイカーが落ちる前に流れこんだ魔力の奔流は魔法使いの脳の血管を破裂させた。このような事態はもちろん通常はありえないことである。

「絶対に逃さぬってことらしいな…」

 ガストンが言う。彼の視線の向かう先には骸骨戦士スケルトンの群れがあった。

 声なきときの声をあげてスケルトンが走り出す。手にしているのは剣や戦鎚。槍を構えるもの矢を番える者もいた。魔王大戦を勝利に導いた英雄たちが、今やみんな敵になっている。

「おじさん…」

 不安にかられたソフィアがガストンにすり寄ってきた。

「待てまて、俺のそばにいると真っ先に怪我をする。後に下がるんだ」

 やんわりとソフィアを押し戻してガストンが言う。

 その直後である、一番前にいたスケルトンが矢を放ったのは。矢はガストンの眉間めがけてまっすぐに飛んだ。

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