時空の旅人~Memory~

櫻井 理人

序章

Memory

ゆう……」


 雪のような白い肌、絹糸のような艶のある黒髪の女性。彼女は、包み込むような優しい声で、目の前にいる幼子おさなごをそう呼んだ。


「母上!」


 悠が彼女に両手を伸ばし、抱っこをせがんだ直後、


こう美人びじん様、こちらへ……」


 女官が彼女を引き留める。


「悠、また後でね」

「母上……」


 悠は、去りゆく母親の姿をじっと見つめていた。






 ――あなたは……。







「バサッ」


 布団を蹴り上げるようにして、リン・ユーは飛び起きた。

 辺りを見回し、景色を確かめる。目の前にあるのは、いつもの寝具にテーブル、棚……普段と何ら変わりはなかった。ただ一つ、先ほど見た夢の中の景色を除いて。


「母上……」


 そう一言呟くと、彼は再び横になった。


「今になって、なぜこのような夢を……」


 自らの胸中に複雑な感情を押し込んだ……あの時と同じように。

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