にぎやかな大通りに足を踏み入れると、

ず私を出迎えたのは大勢の歓声だった。

人の隙間をって眺めてみると、

どうやら誰かの新作がお披露目ひろめのようだ。

「すごいところに来ちまったもんだなぁ…」

私は誰ともなしに独言ひとりごち、

絶え間なく飛び交う歓声を避けるように、

目を伏せて速足でその横を通り過ぎる。

誰かにぶつかったようだが、この人通りだ。

気にする者もいないだろう。

陽の光は眩しすぎる、どこか日陰はないものか。

「ねぇ、ちょっとそこの人」

その声は歓声の中だと言うのに真っ直ぐに私の耳朶じだを打った。

はた、と足を止めて声の主を探した。

この街で私を知る者はいないはずだ。

「こっち、おいでよ」

先程よりもはっきりと声がした。

視線だけで辺りを見回すと、

建物の影からこちらを覗く奇妙に整った顔があった。

その視線の強さ。

丁寧に整った眉と引き締まった輪郭りんかくは、

私の心を一瞬で捕らえた。

「( )」

聞き間違いだろうか。

いや、確かにそう言った。

いつの間にか全身の筋肉が、硬直したように硬くなっていた。


そして私は、歓声に背を向けて


誘われるままに……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る