SCP-013-N 『外出』

何やら不穏な事を春夏冬先輩から告げられた翌日、集合場所に向かおうとした時に棚空先輩が俺を呼び止めた。

「やあ餅屋くん! 女の子とデートだって~!? まったく、君も隅に置けないね~!」

「いや、デートでは無いんですけど。それより……春夏冬先輩から聞きましたよね?」

「うん、そうだよ。……一緒にデートする女の子の名前と一緒に」

まあ・・・薄々感づいてはいた。俺が緋鳥と外出するという事を知っていたらそれも知ってるだろう。

「ホントに問題起こさないでよマジで! あと、警察に通報する時のコード覚えて

 る!?」

「大丈夫です。お金は沢山持ってますし、武器も持ってます。コードは『虹の下には』と『ここは地獄のよう』です。だから早く行かせてください。」

SCP財団というのは様々な顔を持っており、警察署から政治の中枢にまで食い込んでいる。もし職員がSCPに出くわし、それによって負傷者が出た場合は通報をして、その部署を通って財団に連絡が行く仕掛けになっている。コードは共通だが、そのかわり二重で掛けられている。通報して来た一般人がいきなり『虹の下』なんて言うとは思えないが。

「う~ん・・・まあいいや! 何かあっても僕関係ないし! 何もないのが一番だし!じゃあいってらっしゃい!」

「はい、いってきます」

朝から元気な先輩を尻目にさっさと出掛けていく。しかし・・・本当に不安だ。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

俺と緋鳥が待ち合わせをした所は大型デパートの『タカキヤマ』だ。駅と複合していて、何しろ中にある本屋の取り寄せが非常に良いので、俺も何度か使ったことがある。そして、待ち合わせの時間より5分経った時に緋鳥が来た。いつも見るときは制服だが、私服の緋鳥も新鮮だ。白のワンピースに小さな鞄、そして少しの化粧で可愛く見える。シンプルだが、頭のリボンはいつも通り……いや、少し大きくなっている。そして遅刻をしたことを慌ただしく謝罪した。

「す、すいません!お父様が『誰と何をしに行くんだ』ってうるさくて……!」

「いや、全然気にしてないぜ。なんか、お前も大変だな。いや、それにしても、私服の緋鳥は可愛いな」

「か、かわっ・・・…! そ、そんな事急に言わないで頂きますの!? こちらとしても心の準備が・・・! も、もういいですわ! 早く行きましょう!」

思ったままを伝えたら怒られてしまった。職場では上司が上司なので事ある事に『可愛い』と言わされていた(最近一人増えた)。だから最近はあまり気にしなくなっていたのだが、そんな緋鳥がまた面白いので早歩きの緋鳥に一言。

「かーわいーいぞー!」

「うるさい!」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「それで。そのげーせんというのはここですの?結構大きいですが・・・。」

「ああ、そうだ。ゲーセンっていうのは案外デカいんだ。ここ『KANAMI』に限らずな。」

『KANAMI』は日本のゲーム企業で、海外進出もしているため世界でも有名な会社だ。ゲームのカセットやハードを主力としているが、ゲーセンの筐体も作っている。そんな筐体が集まっているのがここ『KANAMI』だ。最近のゲーセンよろしく、遠くからの見た目よりも広く清潔な店内に、クレーンゲームのやかましい音等の音が心地よく混ざっている。ちなみに『MAGOSADOU』との仲も良好な事はちゃんとリサーチ済みだ。

「おおお・・・! よく見れば見るほど楽しそうですわね! 早く行きましょう!」

「大丈夫だ、そんなに慌てなくてもゲームは逃げね・・・」

そこまで言い掛けた途端、背後から冷たい視線を感じた。すぐに振り返るが、そこには誰もいない。

「ほら早く! さっさと行きますわよ!」

「あ、ああ。すまないな」

今しがた感じた冷たい目線は、どうも普通の感じがしなかった。ただでさえ不祥事を起こせないのに、問題が起きたらマズい。今日は慎重に行くしかないと決意を決め、興奮している緋鳥を追った。

まず最初に、簡単に取れそうで可愛いくまさん人形を見繕って緋鳥に試させた。

「まず最初に百円を入れる。そしてこのレバーを操作して、あのくまさんにアームを合わせる。それだけだ。」

「わかりましたわ! 見てなさい餅屋さん!」

(フラグか)

フラグでしか無い発言を建設したが、なんと一発で取ってしまった。簡単な台だったとはいえ、一回もやった事が無いのにそれは素直に凄い。

「おー!一回で取れましたわ!今ちゃんと見てましたよね!」

「ああ、ちゃんと見ていた。一発で取れたのは凄いぞ。」

そう誉めると、緋鳥はくまさんに向かってへにゃりと破顔した顔を見せる。

……それは、いわゆる猫や犬に言う可愛いではない。ちゃんと女の子としての可愛いだった。



「あれ?餅屋さんどうしたんですの?お顔が赤いですが?」

「ああ、大丈夫だ。単に、今の顔が可愛かったからそれで」

「なっ!? ……う~~! そ、そんな人を簡単に可愛いなんて……」

そういってる緋鳥も嫌な気はしないらしい。今度五月にもやってみるか。そんな悪巧みの思考中にも視線は感じていたが、取りあえず無視しておくことにした。まあ、大丈夫だろう。俺よりも警察の方が優秀だ。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

その日は結局、一日中緋鳥と『KANAMI』で遊んでいた。格ゲーの筐体で戦ってボロ負けした緋鳥を慰めたり、ゴリラの人形がとれないと言って俺に取らせたり、視線を感じたりしていたが、それはまた別の機会に記そう。しかし、誰かにも同じ事をしてあげた記憶がある。そして、一人で帰れると言って聞かない緋鳥を何とかして宥めて家までタクシーで送った。

「今日はありがとうごさいました。また今度一緒に、今度は五月さんも誘ってみましょうか」

「あ、ああ……。それより、お前の家大分デカいな。」

「そうでしょうか?『KANAMI』よりかは小さいと思いますが・・・」

「多分こっちのほうが1.5倍ぐらいある」

運転手も少しびっくりしてたしな。

そして、緋鳥と別れて財団に帰った俺は春夏冬先輩や棚空先輩の猛質問を何とかかいくぐり、睡眠を取ることに成功した。

――――――――――――――――――――――――――――――――

~都内某所~

「おい。あいつと緋鳥は何をしていた。」

「はい。コードネーム『タチウオ』が報告した情報によると、お嬢様を誉めた回数13回、お嬢様が照れた回数15回、お嬢様が」

「ああ、もういい、大丈夫だ。それより、緋鳥は楽しんでいたのか?」

「ええ、それなりには」

「ならいい。もし何かあれば、《消すだけ》》だからな」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

あとがき

どうも、海から帰ってきたのにも関わらず肌の色と宿題の量が変わらない餅屋五平です。ずっと海の家でゲームしてました。

『ちょっと待って!近況ノートに書かれてた内容が入ってないやん』

そんな声が聞こえてきそうですが、それに関してはすいませんでした。実際、その内容にすると次から面倒くさくなるので変えました。それだけです。何かありそうな雰囲気を醸し出していたのに関わらずなー。



SCP-114514-JP-Jが検出されました……………



クラスP記憶処理を開始します………………

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る