SCP-010-N 『部活』
「ねえ、餅屋くんってもう部活決めた?」
「…あー、そう言えばそうだな。すっかり忘れてた。そろそろ決める時期だったか?」
「あら、私も忘れてましたわ」
時は昼休み、午前中の授業から解放された学生達が食事を楽しむ時間だ。かくいう俺達も例外では無く、俺と五月と緋鳥で昼食を食べていて、授業が始まるまで暇だったので3人でお喋りしていた。俺は自炊出来るので自家製だが、残りの2人はお母さんとメイドさんらしい。一応料理を作れる人もいるが、とても学校に持ってこれるものではない。最悪死ぬ。
「よかった~…私もまだ決めてないんだ。ねえ、3人で放課後決めに行こうよ!」
やっぱりそういう話になるか。俺の運動能力と体力は皆無に等しいので、運動系は無理だ。緋鳥は知らないが、それは五月もきっと同じだ。
「まあ、早めに決めておいても損は無いな。良し、賛成だ」
「ええ、私も賛成ですわ」
「やった!じゃあ放課後に見学に行こう!」
「Hiみんな!授業が始まっちゃいますよ!早く準備してくださいね!」
部活の見学が決まった所で、授業5分前になってしまったので、それぞれ席に戻った。……部活、か。本当の学生時代も、入ってはいたが。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「五月さん、この学校って部活や同好会はたくさんありましたわよね?」
どこからか『███高校部活パンフレット』という用紙を調達してきた五月に、緋鳥が初耳の事を言ってきた。まあ、薄いからといってもパンフレットが出来るような部活数なんだろう。部活の予算はどこから出ているのだろうか?
「うん、たくさんあるよ。バスケ部やサッカー部はもちろん、剣道部や剣道将棋同好会が有るし、文化部とかも生物部や文芸部、図書部やオカルト同好会も有るね。とりあえず、メジャーな部はなんでもあると思うよ。」
「ほお、そんな数がある……ん? 剣道将棋同好会って何?」
「ふむ…私運動系は無理ですので、文化部で行きましょうか。」
「私も苦手だよ!」
それは見た目といつもの行動を見ていれば分かるが……俺としては剣道将棋同好会が気になる。
「それはまあ、なんとなく分かりますわ」
「そ、それは否定できないけど…じゃあ、生物部なんてどうかな?主に畑で農作物作ったり、生き物を飼ったりしてるみたいだよ?」
「ああ、それはいいですわね。餅屋さんも大丈夫ですわね?」
「あ、ああ…大丈夫だが…剣道将棋」
「じゃあ早速行こうか! 場所は……生物室、だね」
「よし、じゃあ早速行きましょうか。餅屋さんもそこで突っ立ってないで行きますわよ」
「…。ああ、じゃあ行こうか」
もしかしたら…こいつも剣道将棋がなんなのか分かってないんじゃないか? きっとそうに違いない。とりあえず、3人で生物室に向かう事にしたが、何だか嫌な予感がする。必要無いと思うが、一応の気構えは必要だろう。
いざとなれば、俺がこいつらを守るしかないからな。
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「餅屋くん、最初に入ってくれない…?」
「ええ……コミュ症過ぎないか…?」
「五月さん……流石にそれぐらいは出来ないと…」
五月が安定のコミュ症を発揮したので、あきれた俺と緋鳥が入ることにした。
・・・・・・五月さん、制服伸びるので背中掴むの止めてもらえますかね。
「すいません、部活の見学に来たんですけど…」
「あら、誰もいませんわね。何処に行るんでしょうか?」
「え、誰も居ないの? な、何だ~……」
熱帯魚やカメがいる割と広い部室に入ったはいいものの、誰も居ないんじゃどうしようもない。畑に行ったんだろう、勝手にと結論付けて3人で待つことにした。そのまま10分ほど経ってしまい、畑を探しに行こうとした時にようやく誰かが1人入ってきた。
眠たそうな目に長い睫で、長い緑色の髪の毛で片目を隠している。学生とは思えない大きな胸元にピンク色の缶バッジで『部長』とポップ体で書かれている。となると、どうやらこの人が部長らしい。熱帯魚に夢中の五月はまだ気付いてない。
「…。…君たちは誰だい」
「あ、部長の人ですか。こんにちは、1年生の餅屋持葉です。生物部に見学に来ました」
「同じく、1年の…緋鳥です。私も見学に来ました。そして…」
「あそこで熱帯魚を見てるのが、五月雨月です。一応あいつも見学者です」
見学者という言葉を聞いて固まった部長は、しばらくびっくりしたような顔をしたが
直ぐに嬉しそうな顔になった。
「…!? …やったね。部員が増えた。君たちはもう逃げられない」
「え? いや、それって…」
「…! …自己紹介が遅れた。私は2年生の
「ちょっと待っててください、あのアホを呼ぶんで…おーい五月、部長の人が来たぞー!」
「ふぇ!? あ、ど、どうもよろしっ!? いったーい、口噛んだー!」
コミュ症を発揮してる五月を、烏山先輩が不思議そうに見つめている。まあ、無理もない。
「…? …あの子は何してるの?」
「ああいう奴ですので気にしないでください。…あと、質問いいですか?」
「…。…なんでも聞いて」
どんなことを聞こうかと迷っていたが、緋鳥が先に質問してしまう。しかし、その質問も中々ハードなものだったのだが。
「なんでこの部活って先輩だけなんですの?」
「おおい! やめろってそういうこと聞くの!」
「え? な、なんでですの…?」
「…。…別に遠慮しなくてもいい。生物部は人気が無いから私しかいない。だから2年が、つまり私が。部長もやってる。他には?」
「あ、じゃあなんで顧問の先生がいないんですか?」
「…! …顧問は私も忘れてた。あまりにも来ないから。でも確か。アガサ先生。」
そんなんでいいのか、生物部。しかもあの人かよ。それは中々来なさそうだが、まだ一番聞きたいことが残ってる。
「あの…さっき言ってた『もう逃がさない』ってのは…」
「…! …生物部は部員が少ない。去年はもう2人いたけど。一人は転校。一人は辞めた。私も一人じゃ寂しい。だから入って。」
そういう理由だったのか。ふと隣を見ると、そこにいる緋鳥がいたく感動している。……まさか。
「そういう理由でしたの…分かりましたわ!私たち3人とも生物部に入りますわ!」
「はぁ!?」
嫌な予感は的中した。お金持ちのお嬢様なのにそんなに流されやすくていいのか?
しかも五月はカメに餌をあげている。こいつも一応慌てるべきなのだが、なんかめんどくさいので放置。
「お、おい。俺はまだ決めて…」
「い・い・で・す・わ・ね・?」
「アッハイ」
前言撤回。お金持ちのお嬢様ならではの気迫も持ち合わせていた。まあ、確かに可哀そうだからな。俺たちが入れば少しは明るくなりそうだ。
「それじゃあ、その入部届を3人分ください。あいつにも渡しますから」
「…!…すごい嬉しい。じゃあ年齢と。名前と。学籍番号と。顧問の許可を貰ってきて。明日か明後日でいい」
「分かりましたわ!私、精一杯働かせてもらいますの!」
「…! …そういえば。もう一つ理由を言い忘れてた。私一人だと。農作業がキツイ。だから君たちも。今から頑張ってね」
「はい、分かりました。…今から?」
「分かりましたの!…今からですの?」
その後、俺達3人は割と広い農地の畝作りに四苦八苦したが、それはまた別のお話。
ていうか、それが主な理由だろ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
あとがき
夏休み中は…頑張って書きます。多分スマホ投稿ですけど。投稿頻度も落ちますけど。
そういえば、片目隠してる女の子って凄い可愛いと思うんですよ。思わず出しちゃうぐらいには。ロ█ッタとか。同志求む。
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