第十二話 ミミック、説明される
「あったぞツバキ。これじゃないか?」
各地に散らばった、魔物配合師シグムンドの研究所の一つ。
「どれどれ? おお、これは魔物図鑑じゃな。ちと情報は古そうじゃが、まあ役に立つじゃろう」
ツバキの配合の際に見つけたいくつかの施設のうち、一番大きかった場所。
そこに狙いを絞って、俺たちは再び二人で戻ってきていた。
思った通り、ここなら大体の研究資料が手に入りそうだ。
「あとは肝心な配合図鑑じゃな。それから触媒図鑑と、スキル名鑑もできればいただいていこう」
「それにしても、人間たちはなんでこの研究所、放置してるんだろうな?」
昨日来た時にも感じたことだが、配合研究施設には人っ子ひとり、人間がいなかった。
研究資料としてはそれなりの価値がありそうなのに放置とは、なんとも、もったいないのでは。
「魔物の配合自体、人間には嫌う者も多い。魔王が倒されてからは、ますますその傾向が強まっていたようじゃ」
「ふーん、なるほどなぁ」
「それと、昨日のぬしの話から察するに、シグムンドはもう、死んでおる。おそらく魔神配合の時にな。やつが死んだことを誰も知らんとすれば、資料が回収されていないのも無理はなかろうて」
「え、そうなのか。なんか、悪いことしたな」
でも確かに、俺が目覚めた時、辺りは更地だった。
本当なら、そこには配合に使った設備がなければおかしい。
たぶん魔王の魔力抑制が、彼の人格消失とともに無くなったんだ。
さらには俺のミミックとしての寝起きの瞬発力で、一気に解放された魔神の魔力が辺りを粉々にした。
そんなところだろう。
魔王と配合師、二人の野望は俺のせいで、一瞬で潰えたわけか。
すまん。
不可抗力だったんだ。
安らかに眠ってくれ。
「ここにはなさそうだな」
「こっちもはずれじゃ」
大量の書物を、二人で順番に、しらみつぶしに見ていく。
屋敷にはあの二人がいるとは言え、日が沈むまでには終わらせて帰らなければ。
また前みたいに、どこぞの軍隊が襲ってくるか分かったものじゃないし。
「ところで、特殊配合と普通の配合って何が違うんだ?」
「ぬしはそんなことも知らず、配合で仲間を、なんて言っておったのか?」
ツバキは心底呆れたと言うような口調で言った。
「しょうがないだろ。だってミミックだし、配合なんて魔王の記憶から得た知識しかないぞ、俺には」
正直にそう言うと、ツバキはため息のあと、手を止めずに話し出した。
「そもそも魔物の配合とは、『血統』となる魔物と、その『相手』となる魔物、二体を混ぜ合わせて、別の魔物を生み出す技術じゃ。生まれてきた魔物には、親の『習得スキル』や、ステータスが引き継がれることがある。そうして配合を繰り返し、魔物を強くしていくわけじゃな。生まれてくるのは、基本的に血統となった魔物と同じ系列の、より上位の魔物じゃ。これが、いわゆる『通常配合』。例えばミミックを血統に、クリムゾン・ドラゴンを相手に配合した場合には、ミミック系列の上位種、おそらくは『パンドラの箱』が生まれる」
淀みないツバキの説明。
なんとも分かりやすい。
いや、そもそも配合というもの自体、仕組みがシンプルなのだろう。
「では、『特殊配合』とは何か」
その部屋で一番大きな本棚を調べ終わり、俺たちは別の部屋に移動した。
「特定の種族の魔物や、『触媒』の組み合わせで配合した場合にのみ、血統の魔物の系列に関わらず、特別な魔物が生まれる。これを『特殊配合』と呼ぶ。血統を魔王、ミミックを相手に、触媒は勇者の血。これが魔神の特殊配合レシピじゃ。同様に、クリムゾン・ドラゴンを血統に、コスモ・フェアリーと配合すれば、サムライエルフになる。特殊配合をうまく利用すれば、雑魚モンスターを素材に強力なモンスターを生み出したり、珍しいモンスターを生み出したりできる。特殊配合でしか生み出せない魔物も少なくない」
「なるほど」
「じゃから、特殊配合のレシピにはかなりの価値がある。強い魔物を生み出すことも、比較的容易になる。まあ、素材モンスターを捕獲する実力がなければ、絵に描いた餅じゃがな」
「でも俺たちならそれができる。そういうことだな」
「うむ。まあ、図鑑が見つかれば、な」
そこで、比較的埃が積もっていない本を見つけた。
本棚から引き出して、タイトルを確認する。
「触媒図鑑! 見つけたぞ、ツバキ!」
「こっちもじゃ。スキル名鑑。あとは配合図鑑じゃが……」
本棚は、もう全部調べてしまっていた。
ほかに本が置いてありそうなところは見当たらない。
うーん、これは一旦、引き上げかな。
「今日はここまでにしよう。今からほかの研究所を当たるのは無理だ」
「あいわかった。まあ初日の収穫としては十分じゃろう」
俺とツバキは本を抱え、研究所を出た。
シールドを張って飛び上がり、屋敷を目指して並んで飛行する。
「仲間を作るって言ったけどさ」
「ん?」
「お前は、魔王以外に友達って、いたのか?」
怒るかな、と思ったけれど、聞いてみた。
世界で最大の火山の、マグマの中。
そんなところで暮らしていたツバキ。
他を寄せ付けないドラゴンの姿で、魔王と喧嘩友達だったツバキ。
もしかして、こいつは。
「……おらんで悪いか?」
「いや、俺も一緒だ」
俺の言葉に、ツバキはきょとんとして、こちらを見た。
やっぱり、そうだったか。
「だからさ、きっと楽しいと思うんだよ」
「……さあな」
「楽しく、なるといいな」
「……まあ、そうじゃな」
日が沈む。
少しずつ輝き始めた星をバックに、俺たちは音よりも速く飛んだ。
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