あいすちゃんの黒歴史ノート

さいねりあ

1

 埃の被った机の引き出し。鍵を外すと、眠っていた時間が再び動き出す。



 昼休みの教室。教室の隅で伏せている少女。

「お前が浦川あいすか?」

「誰?」

「高嶋るりだ。生徒会長をやっている。」

「はじめまして。」

「覚えていないか?」

「?」

「小学6年、お前が転校していったときの同級生だ。」

「ごめん、覚えてないや。」

 高嶋、周りを見て、

「話がある。来てほしい。」


 生徒会室。2人のほかに人はいない。

「当時、クラスでタイムカプセルを埋めたのは覚えているか?」

「あったかも。」

「本来なら3年後に開ける筈だったが、今週末に掘り出すことになった。」

「どうして?」

「あの山も再開発で更地にするらしい。」

「そっか。この町も変わったね。」

 予鈴が鳴る。

「すまない。長くなってしまった。詳細は後で。」


 土曜日の昼前。裏山のふもとに当時の同級生数人と元担任の岩崎が集まった。

 あいすも距離を置いて立つ。

「遅れてすまなかった。」

 高嶋があいすの肩をたたく。


「別に。」

「あいすちゃん、戻ってきたんだって?高嶋も元気かい?」

 岩崎が寄ってくる。あいすは答えない。

「今へばるわけにはいきませんから。」

「引き継ぎの時期だもんね。」

「カプセルは掘り出せそうですか?」

「それが……。少し遅かったようだ。」

 山へ続く道には『立入禁止』の札が下がったロープ。

「残念です。」

「まあ、こんなこともあるさ。そうだ、折角の機会だから皆でラーメンでも食べないか?」

「いいですね。お前もどうだ?」

 高嶋が振り返るとそこにあいすは居なかった。


 月曜日の早朝の教室。

 高嶋が戸を開けると机に伏しているあいす。

「おはよう。こんな時間にどうした。」

「……ごめん。」

 高嶋は近くの椅子を借りる。

「あのタイムカプセルでさ、あんた、あたしと一緒にミサンガ埋めたよね?」

「そうだ。」

 少しの間。

「5年も前の話だ。覚えていなくて当然―――」

「―――あたし、確かめたい。」

「行くのか?」

「ダメだよね……。」


「私の『力』があれば不可能ではないぞ。」

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