第17話 今の俺に出来ること
「神殿本部のことに関しては、今は考えるのをやめませんか」
俺はクライブ神官長にそう提案した。
「正直な話、現在本物の使徒として活動している人たちがどのくらい居るのか俺にはわかりませんし、神殿本部やほかの利権が絡んでいる場合なら、下手に探ることで俺やクライブ神官長、孤児院の子供たちの命が狙われる可能性だってあるかもしれない」
「……」
「今現在喫緊で迫っているのは、スタンピードが発生するかどうかという部分です。小難しいことは、スタンピードの危機を乗り越えてから考えましょう。それに、神殿本部の横暴については神々にも考えがあるのかもしれません」
最後の一言だけは嘘くさかったかもしれない。神の関心事は結局のところ世界の維持であって、人類の保護にないという可能性も高いのだから。
「そう、ですね。目の前のことを一つずつ片づけることを優先したほうがよさそうです」
クライブ神官長に納得してもらったようでほっとした。
前世でも利権を巡って暗殺だとか紛争なんてものには枚挙にいとまがないほどだったからな。こんなにいい人が巻き込まれて良いわけがない。
それに、この世界に転移してきたばかりの俺が世界情勢も知らずどうこうできるはずもない。行動を起こすにしろ英雄や使徒として名声を高め、後ろ盾を得る必要がある。
「ひとまず俺に出来ることは、この土地で探索を続けながら自然界のバランスが崩れた原因を調査すること、ダンジョン内の魔物の積極的な間引き、実績を開放しつつ狩猟神アルとの交信ができるようであれば、そちらからの情報収集というところですね」
「自然界のバランスが崩れてしまった原因については、ハンターギルドと協調できると思います。ダンジョン外での依頼については常設依頼を一時取り下げて頂き、ダンジョン内での常設依頼を推奨するよう呼び掛けてみましょう」
「常設依頼?」
「例えば常に需要のあるポーションの原料となる薬草の採取や、人里に降りてくると被害をもたらしそうな狼やゴブリンの討伐などです。誰でもいつでも既定の数のドロップ品を持ち込めば換金できる依頼の事です」
「乱獲の原因の一つになっている可能性もありますね」
「リョージさんが狩猟神の使徒であるということは、公表しても差し支えないのでしょうか?可能であれば、今日の情報を狩猟神の使徒からの情報としてギルドと共有したいのですが……」
「俺の目的は、狩猟神の使徒として狩猟神の信徒を増やすことにあります。騙りは困りますが事実を伝えるのであれば俺の名前を使ってもらって構いません。ただ、使徒とはいってもレベルが低いため英雄と混同し誤解され無いようにだけ注意を払ってください。使徒だからと言って絡まれても、俺にはまだそれをはねのける力がありません」
そこまで話し終えると、神官の一人がドアをノックし、夕食の準備が整ったと教えてくれた。
「切りがいい所ですし、本日の対談はここまでに致しましょう。たいしてお持て成しもできませんが、どうぞ夕食を楽しんでいらっしゃってください。夕食後、お部屋まで湯を運ばせます」
「神官長の心遣いに感謝します。明日からは早速ダンジョンのほうに足を延ばしてみようと思います」
「はい、ごゆっくりお休みください」
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