第63話 もうひとりの自分
「ヴァル…」
彼女が開けたドアの後ろから照らす明かりで薄いシルクのようなローブが透けて身体のラインがくっきり浮かび上がる…
可愛い顔に似合わない美しくグラマーなボディに僕は目を逸らした…そして彼女に背中を向けた…
恥ずかしい気持ちもあったが彼女を見ているとやはりティナの事を思い出してしまう…
僕の表情からヴァルは気持ちを察したのか「優也…側にいてもよいか?」と訊いてきた…
僕は気持ちを彼女に見透かされた恥ずかしさから黙って頷いた…
背中越しに彼女がベッドに入って来たのを感じる…
そしてヴァルはしばらく
「その…昼間は済まなかったのう…あんな事を言うつもりは無かったのじゃ…許してはくれぬか…」
「怒ってはいないです…でも、あなたのような優しい人がやっぱり世界を征服するだなんて…やめてほしいと思います…」
「すまぬ…わらわはそれを止めることは出来んのじゃ…」
ヴァルは昼間、空を見上げた時と同じ目をしている…
「何故ですか…
「優也…わらわをしっかりと抱きしめてはくれぬか…頼む!」
僕はヴァルの方に向き直り彼女を見つめた…
お義父さんの師匠と言われて恐縮していたが、見た目は出会った頃のティナのように若くてとても美人である…
僕も男だからやはりドキドキしてしまう…僕は目をつぶって言われるように彼女を抱きしめた…彼女はゆっくりと語り始めた…
「のう、優也よ…わらわはこの世に生を受けてから今までそなたのように純粋な気持ちの愛情を受けた事がないのじゃ…
だからお主のようにわらわに妻や恋人への愛情を注いでくれる者も誰一人として居なかった故、どう接して良いのかも分からん…」
「どうしてですか?貴女にも両親や友人達が…」
「…おらんのじゃ…わらわには…実はわらわはの…」
同じ時刻…ミスとリルを寝かしつけながらプラティナはヴァルプルガの言葉を思い出していた…
「あやつは…ヴァルプルギスはもう一人の私なのじゃ…私の欲望が実体化して生まれた私そのもの…だから私が修道院で修行した力であやつを封印することにした…
あやつはその時にジュエラ、ソーディア、ミラールの史上最強魔法使いの骸を生き返らせてこの世界を乗っ取ろうとした…しかし、私も命と引き換えにあやつら全員を封印したのじゃが…」
「欲望が実体化?では肉体は無いのですか…」
「いや、あやつは封印される時に私の肉体を奪って行きおった…だから私の墓は何も入っておらぬ…今、お前達と話している魂が眠っておるだけじゃ…あやつのとてつもない魔法力で肉体は若返っておると思うが…
あやつが欲望を達成するか、欲望を失った時、その肉体はこの世に留まることが出来ずに崩れ去るであろう。敵として闘ったとはいえ、あやつは自分自身じゃ…早く土に還してやりたく思う…」
「ダーリン…待っててね…すぐに助けに行くから…」プラティナは口唇を真一文字に結んだ…
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