第4話花言葉
A^me Fleur
そこは常に花が咲き乱れる、不思議な店。
願い、悩み、欲望や迷いを持った者は何かしらの形で誘われる。
様々な花が咲き乱れる様はまるで異空間だろう。
店からしたら季節など些細だとでも言うのだろうか。
いや、実際にそうなのだろう。
その店を見付けられる者は数も少なく、見える者と見えない者が居るのだから。
しかし時が来れば、誰にでも見える。
客は店を選ばず、店が客を選んでいた。
――――タイミングすらも。
A^me Fleurとは、そういう店だった。
「ようこそ、A^me Fleurへ
お待たせしました
さぁ、お客さんの
女性客が案内されたテーブルのソファに座ると、テーブルの上でこと、ことりと小さな音がする。
気が付けば、以前は居なかった青年がテーブルの傍に居て、銀の装飾が美しいティーカップを用意していた。
この店の店員だろうか。
女性客が見ていたのに気付いたらしい青年は紅茶の傍に御茶菓子であろう可愛らしいケーキを置いてふわり、と微笑む。
「失礼」
青年は一言、そう言って沢山の花に隠された奥に戻って行く。
女性客は青年の柔らかな微笑みについ、頬をほんのり赤く染める。
後に、紅茶を出した青年、
「凄く優しそうな子だったんすよ!
あーゆー子程、ギャップが可愛くてっすねー
……ぶちんっ
通話で興奮した様子の助手の話を聞いていたウルスは電話を早々に切ったと言う。
時間にして一時間後。
カノンは女性客に桜草の
銀の刺繍とフリルの可愛らしい白い袋にサテン生地のシンプルな
「最初は薄い効果の物から、徐々に強い効果を持つ物に交換させていただきます」
サシェを受け取る女性客は何故、とは聞けない。
以前、弱い効果の香水を試した時に瓶を落としてしまった為、何も言えなかったとも言える。
「今回お渡しするのは薄い効果の物と言う事で一週間後に効果が切れるので、週末にまた受け取りに来てください」
カノンはそう、ミステリアスに微笑み、サシェを女性客に渡した。
「分かりました、ありがとうございます」
サシェを受け取った女性客は不安そうに、答える。
そして当然、当たり前の疑問が湧く。
「あの、代金は……」
「当店ではどの
代わりに別の物を頂きますが、それはまた最後にお話しましょう」
「えっ、それはどういう……」
カノンは女性客の戸惑った質問に対し、楽しそうに微笑んだ。
口元に、人差し指を添えて。
「ふふ、対した物ではありません」
カノンのその雰囲気と言葉からそれ以上は何も知る事が出来ないのだと、女性客は察する事しか出来なかった。
女性客は少し不安そうな表情のまま、店を出た。
女性客が店を出た後、カノンは店の扉に引っかかっているプレートをひっくり返し、鍵を閉める。
CLOSE
A^me Fleur店内、カノンが戻るとテーブルを拭く助手の後ろ姿があった。
「店長、嘘付いたっすね」
「おや、聞き捨てならない事を言うじゃないか」
「事実じゃないっすか
店長の出す物に効果の弱い物なんて無いじゃないすか」
「残念、バレたか」
助手に返した
A^me Fleurでサシェを受け取った女性客は家に帰り、自分の部屋に即座に行く。
途中、母に声をかけられた気がしたが返せたのは「ただいま」だけである。
明日、上手くいくと……良いな。
学校へ行ったら親友に声をちゃんとかけられる様に、と願う。
ちゃんと、仲直りがしたい。
ちゃんと話がしたい。
そうすればきっと――――
気が付けば彼女は眠っていた。
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