第27話 不可解な死

「おめでとう、ルカ君。これで君も立派なメンバーの仲間入りだよ」



「紋章も震えちゃうくらいに素敵よ……真っ白な肌に映える蜘蛛の痣、んふふふっ、はぁ、なんだか体が熱くなっちゃうわ」



こうして、俺は見事トワルの仲間入りを果たしたわけだ。正直あまり乗り気ではないが、仕方ない。それから、そこの痴女。落ち着け。



「ははは、良かったね。トワル最少年メンバーじゃないか。いや、お前と同じくらいだったか?ジーク」



「いや、彼の方が早いよ。私がトワルに入ったのは、12の頃だったからね」



「あの頃から生意気だったわね、ジーク」



「ロレンツァも、当時のボスに随分と叱られていたじゃないか。お互い様だよ。あちこちで奴隷市場を燃やし尽くして、それはそれは後処理が大変だったんだからね」



「貴方、この話をすればいつもそう恩着せがましく言ってくるけれど、ジークの方が派手に暴れまわっていたことを忘れて欲しくはないわね」



「そうそう、君、知っているかい?君の尊敬するジークは、昔にちょっと派手にどんぱちして先代のボスにこっ酷く叱られてね……ははっ、あれは傑作だったよ。首輪をつけられて、村中を引きずり回されたんだからさ、ははははっ」



「いらないことを言うんじゃない。君だって、人の女を寝取ったのがバレて半殺しにあってクセに。瀕死状態の君を助けたのは一体誰だったかもう忘れたのかな、クリス」



「その名で呼ぶのはやめるように言っているじゃないか、ジーク。全く子供のような復讐をするんだから困るね、君は。やれやれ……」



「貴方たち、ロクなことしてないわね」



何やってんだよ、ジークヴァルト。

っていうか、12歳で既にトワルのメンバーとか一体どんな幼少期を過ごしてきたんだか。

どうやら、ここの三人も随分と はっちゃけた時代があったようだ。



さて、俺の仲間入りを果たしたのち もう集会は終わりかと思っていたが どうやらそうではないらしい。


エドワールが座り直すと、皆 ピクリと眉を動かしだす。



「先生、一体何が始まるんですか?」



「ん?あぁ、今からは定期報告会だよ。我々のテリトリー内や周辺での気になる情報を報告するんだ」



なるほど、確かにそれはテリトリーを守るためには重要か。



「さて、何かあるかね」



エドワールの一言に、ロレンツァから発言が上がった。



「先日の違法奴隷売買の件ですが……」



「あぁ、あれは君の担当だったね。それなら、既に一掃したと報告があったけれど何か動きでもあったのかな」



「はい。あの商人が売買していた奴隷はボスの指示通り解放したのですが、商人が所持していた奴隷の名簿と照らし合わせてみたところ数人既に脱走していたようで」



奴隷、か。

たしかロゼッタも元奴隷だったらしいけど、やっぱり元の世界ではそんな存在いなかったし新鮮というか現実味がないというか。



「ふぅん。奴隷が脱走だなんて、その商人 随分と奴隷の管理がなってないのねぇ?でも、そぉんなことどうだっていいじゃないの。奴隷の一人や二人消えてしまったところで、どうせ解放するんだから」



「ただ消えていたら私だって報告はしないけれど、そうじゃないからタチが悪いの」



アンジェリーナの言葉に、ため息をつくロレンツァ。その表情は硬い。



「確認したところ、最近 村のはずれの森で発見された死体が脱走した奴隷たちのモノだということがわかりました」



「へぇ。まぁ、素直に考えれば 逃げたはいいものの森に彷徨って食料もなく餓死したっていうのが最もな話だけれど……そうじゃないんだろ?」



「その通りよ、クリスチャン。彼らの遺体には致命傷と考えられる傷跡が残されていて、他殺は明らか。そして、奴隷の名簿から見つかっていない者が一名いることが分かりました。品番は1147ということ以外、情報はありません」



「……なるほど。報告ありがとう、ロレンツァ君」



ロレンツァの報告に、エドワールは笑みを浮かべたままだ。余裕があるのか、それとも場慣れしているのか分からないが、気にもとめていないかのような振る舞いだ。



それにしても、奴隷たちが殺されていた。そして、その死体は山の中。なんとも物騒な話だ。

それに、今も一人の奴隷と奴隷たちを殺した犯人が逃げ回っているという事実。


あのほのぼのとした村からは考えられないような事件だ。



「さて、他に報告はないかね?……なさそうだね、なら今日はこれくらいにしておこうか」



報告はロレンツァのモノだけで終わり、トワルの集会は終わった。



それぞれが好き勝手に帰宅して行く中、俺もジークヴァルトと共に馬車に乗る。



「どうだい、トワルに加わった気分は」



「え、いや……あまり現実味がなくて」



最悪です、なんて言えるはずもなく その場の雰囲気で質問を流す。ジークヴァルトは何を考えているのかあまり読めない表情で、じっと馬車の窓から外の山々を眺めていた。



「あの、クリスチャンさん達と仲がいいんですね。ジークって呼ばれてましたし」



「まぁ、彼らは一応 古い付き合いの仲だから。こんな感じさ」



何だこいつ。

自分から質問を振ってきたくせに、こっちが質問し返したら何となくはぐらかす。

この男、食えない奴だ。



それから屋敷まで沈黙は続いた。

ただ、馬の蹄の音だけに耳を澄ませる。



ジークヴァルトの後について馬車を降り、そのまま屋敷へと入った。


まったく、疲れた。

いろんなことが一気にありすぎだ。

これもまた、世界征服の一歩……なのか?


ぐるぐると考えながら玄関先でニナを待つ。

それにしても、今日はやけにニナの出迎えが遅い。しかし、少しすると足音が聞こえてきた安堵した。なんだ、何か用事でもあったのだろう。



「おかえりなさいませ。ジークヴァルト様、お客様です」



「……客、ねぇ。招待した記憶がないけれどな」



こんな時間に、客?


不思議に思って、客間に向かうジークヴァルトの後を追う。彼はそれを止めはしなかった。


屋敷の客間につき、ガチャリと扉が開かれた。



「ジークヴァルト様、ルカ坊っちゃん……助けてほしいっす‼︎」



なんで、ペレグリンがここに?

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