第18話 必殺奥義〈顔面偏差値高い高ーい〉

「いや、いやいやいやいや‼︎俺じゃないっすよ!俺が泣かせたわけじゃないっすから!」



慌てふためくペレグリンの後ろでピーピー泣く、俺ぐらいの年齢の少女。頭は綿毛のようにふわふわで、そこから羊の特徴的なツノが生えている。うわぁ、こういうのロゼット以来久しぶりにみたなぁ。



「えっと、君 大丈夫?何か悲しいことでもあったの?」



俺よりも身長の低い彼女に話しかけると、ビクリと肩を震わせて潤んだ瞳で見上げて来た。


ほほぉーん、なるほど。なかなかに……いいな。

いやしかし、こんな幼女を40代手前の男がそんな目で見るのは流石に犯罪……いやいや俺は一応未だ彼女とそう変わらない年齢、ということになっているわけで。


オッケー、合法!



「お菓子……取れないの……」



え、そんなことで泣いてたのかよ。


泣きながら答える彼女に少々呆れつつ、お菓子の入った籠が置いてあるテーブルを見上げる。

まぁ、彼女の身長ならこの高さのモノは取れないか。



「なぁーんだ、そんなことで泣いてたんすね。ほら、俺が取ってあげるっす」



「ほんとぉ……?」



「ほんとっす!」



ペレグリンは籠からお菓子を3個取ると、俺と少女に分け与えた。

こいつ、なかなかに面倒見がいいな。


お菓子を無事もらえた少女と俺たち二人は、教会の裏の庭でそれを食べる。

教会内ではまだ絵本朗読が続いているのか、子供は俺たちしかいない。



「あ、自己紹介がまだだったっすね!俺の名前はペレグリン。手紙や荷物を届ける仕事をやってるっす」



「僕はルカだよ。この村の近くに住んでいる学者さんの屋敷に住まわせてもらっているんだ。それで……君は?」



俺が名前を聞くと、羊娘は はわわっといきなり顔を真っ赤にする。この娘、昭和時代のステレオタイプなドジっ子みたいだな。



「え、あ、えぇっと……わ、私は、メリーって言います……」



「メリーかぁ……可愛い名前っすね!」



さらっと褒める男、ペレグリン。

お前はすごいやつだよ、将来モテるぞ。


少々イタリア人気質なペレグリンを他所に、俺はメリーという少女を観察する。


最近はずっとこの教会に通っていたが、こんな羊頭の娘は見かけていない。というか、こんな特徴的な外見の子を忘れるわけない。

ということは今日初めて来たのか?


少し聞いて見るか、と思った時。

朗読を聴き終わった子供達が、教会の裏庭に遊びに出て来た。



「あ、メリーがいるぞ!」



「ヒィッ……」



子供達の1人がメリーに指差すと、彼女は怯えた様子でペレグリンと俺の後ろに隠れた。

ん?なんだこの感じ。

子供達はニヤニヤした表情でこちらに向かってくる。



「おい、隠れてないで出てこいよ」



「怖いのかよ?」



「この間みたいに、毛を刈ってやるよ」



あー、理解した。なるほど、こいつらメリーをからかって虐めてるのか。

メリーは完全に怯えきって縮こまっている。



「こらこら、皆んな仲良くしなくちゃいけないっすよ!」



「うっせー、ペレグリン!お前は引っ込んでろよ!」



ペレグリンさん、見事に子供達から舐められてますね。プークスクス。


さてと、正直言って俺には1ミリも関係ないが、ここは彼女に救いの手を差し伸べてやろう。


勿論、これも後々 俺が有名になった頃に英雄記として語り継がれるエピソードの一つにするためだ。幼い頃から弱い立場の子に優しくしていた、だなんて情報があれば大衆は好印象を持つはず。



「君たち、弱いものイジメは良くないよ」



「んぁ?うっせーよ!お化け‼︎」



あん?お化け?



「お前、いっつもローブ着て顔隠して、そんなに見せられないのか?」



「ブスだから恥ずかしくて見せられねぇんじゃねぇーの?」



ほっほーん。

なるほど、なるほど。

このガキども、少し優しく諭してやったというのに、未だ自分たちの身の程をわきまえていないと見える。



「おい!ルカ坊っちゃんにそんなこと言う奴らは、いくらの俺でも許さないっすよ!」



「いいんだ、ペレグリン」



「で、でもっ」



怒るペレグリンを抑え、僕は2人の前に出た。

そっちが俺に喧嘩を売ってきたんだ。

これは正当防衛、ということだ。



「もう二度と、メリーをいじめないって約束してくれるかな」



「はぁ、だからお前は引っ込んでろよ!」



「な、何なんだよ、お前!」



俺は、バサァッとローブを取り その超国宝級の顔面を太陽のもとに晒した。



「ぐっ……うわぁぁぁっ⁉︎」



「ひぃぃぃぃっ⁉︎」



子供達は目を抑え、その場にのたうちまわる。

まるで目を焼かれたかのようだ。


そう、この攻撃こそ。

必殺奥義〈顔面偏差値高い高ーい〉だ。

急激に神々しく完璧な顔面を視界に入れることで、そのオーラに目が耐えきれなくなる。アレのことだ。


残念だな、子供達よ。

お前たちの負けさ。



「す、凄いっす……ルカ坊っちゃんの周囲からキラキラしたものが見えるっす」



「す、すごい……」



まぁ?これくらいはぁ?できますけどもぉ?

俺は勝ち誇るわけでもなく、子供達の元まで行き



「もう一度聞こう。メリーをいじめないって約束してくれるかな」



「わ、分かったよぉ!」



子供達は涙目で逃げ帰って行った。


決まったぁぁぁぁぁぁ‼︎

よっしゃぁ!


このクールで冷静な対応、どうよ!

いやぁ、かっこいい!素敵っ!

俺、最高にかっけぇ‼︎


何となくだが、俺に秘められた力を利用することは出来そうだ。危害が加えられそうになった時以外は、この力は操れる。



「あ、あの……ありがとうございます!これ、お返しします」



「あぁ、ありがとう」



ローブを返しに来てくれたメリーは、俺の顔を直視出来ないのか、恥ずかしげに俯いてモジモジしている。

うんうん、この顔は最初は神々しすぎて見れないよな。分かるぞ。



「いやぁ、やっぱり凄いっすね!ルカ坊っちゃんのその美貌!」



だろーーーっ!知ってるー!

とは言えず、ぐっと堪えて笑う。



「やめてよ、ペレグリン。僕なんてそんな……」



謙遜まで兼ね備えた、俺。

完璧なるイケメン!


俺は溢れる自己肯定感に満足しながら、メリーの手をそっと取った。



「メリー、また虐められそうになったら僕に言ってね。いつだって君の味方だから、ね?」



「そうっすよ!あ、勿論 俺も飛んで駆けつけるっす!俺たち、友達っすから!」



「友達……?」



「うん。君と僕たちは友達だよ」



「とも……だち……えへへっ」



嬉しげに照れ笑いを浮かべるメリー。

これは、将来が楽しみだ。

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