転生したら、顔面がチートでした。
マツダ
第1話 タラレバはきっと嘘
イケメンに、生まれたかった。
俺はいつもそう思う。
例えば、朝起きて洗面所の鏡で顔を見た時。
例えば、ふと電車の窓に反射した自分の顔を見た時。
例えば、暗転したスマホにうつる顔を見た時。
あーあ、イケメンに生まれたかった。
イケメンに生まれたら、こんな人生にはならなかったのに。みんなにチヤホヤされて、何もしなくても褒められて、注目を浴びて、もてはやされるんだ。
こんな、37にもなって深夜にカップラーメンをすすりながら、1人寂しくネットサーフィンするような人生にならなかったのに。
大学で友達に囲まれて、一流企業に入って、そこで出会った美人と結婚して、可愛い子供も生まれて、一軒家建てて……。
イケメンに生まれなかったから。
イケメンに生まれなかったから、俺はこんな人生しか歩めなかった。
イケメンに生まれてたら、きっと上手くいってた。いってたはずなんだ。
空になったカップラーメンの容器に箸を放り込んで、そのまま床に寝っ転がった。汚れのこびりついた照明とシミだらけの天井を何気なく見つめながら、イケメンに生まれた場合の人生を脳内プレイしながらニヤニヤ笑う。
いい事ないかな、いい事ないかな、と待ち望んで37年と数ヶ月。結果から言えばいい事なんて何一つなかった。気がついたら、もういい年になっていて夢も希望もない独身アラフォー。手元に何にも残らず、金も資格もない。のらりくらりの生きたなれ果ては、得意の妄想で時間を潰す日々。
やり直したい。何にもかも。
全てをリセットして、また一から。
次こそきっと、上手くやってやるんだ。
そう、上手くやる。
「まーた言ってる」
ふと、耳元で囁く声。
んぁっっ?と変な声を出しながら飛び起きた。
誰だ、今の?
「イケメンに〜なった〜ら。イケメンに〜なった〜ら。とっもだっち100人でっきるっかなぁ〜」
きゃっきゃっと幼い子供の声が、狭い部屋にこだましてる。姿は見えないが、確かにいるはずだ。しかし何処に?
「で?富士山の上で、おにぎり食べたいの?」
またグイッと距離が近づいて、声がする。
息遣いまで感じるのに、やっぱり姿は見えない。ゾゾゾッと背筋が凍る。幽霊か?ポルターガイストとかそういうやつか?
「失礼な!幽霊なんて、そんな生温〜いヤツじゃないぞっ!私は神なのだっ!」
神、なんて大口を叩いた声の主はフフンと偉そうにして、未だ姿を見せない。
神?こんな子供の声をしたやつが、神ぃ?
俺は半笑いになりながらも、冷や汗をかく。
一体何なんだよ。警察か?お祓い?塩まくか?
「子供?ンンッ、一体誰のことだね」
「こんな七変化しているのに」
「子供だと」
「まだ思ってるの?」
困惑する俺の耳に、老若男女の声が次々に吹き込まれた。うわぁぁぁと耳を塞いで、玄関まで走る。やばい、絶対なんかに取り憑かれてる。とにかく外に出よう。誰かに助けてもらおう。
そうだ、大家の矢崎さんならいるはずだ。テレビの音してたし。
アパートの廊下に飛び出して、赤茶色に錆びた階段を駆け下りる。
「まぁだ、人頼み」
「そんなんじゃ、ダメダメよ」
「まったく、これだから若いもんは」
「0点っ!」
相変わらず煩い声から逃げるように頭をブンブン振りながら階段を降り続ける。
「逃げ続ける人生は楽しいかにぁ〜?」
「若者は、現状を受け止める能力がありませんなぁ」
「教育が悪いんじゃありませんの?教育改革が必要ですわ」
「甘ったれるな!」
うるさい、うるさい、うるさい、うるさいっ!
いつまで降り続ければいいんだ!
こんなに階段は続いていたか?
今何段降りてるんだ?
はぁはぁと息を切らしながら、ピタッと足を止めた。階段の先、先ほどまで見えていたコンクリの床は無く、何処までも続く階段が闇に消えている。
ここは、どこだ?
「磯山大輝くん赤点ですね、再テスト!」
子供の声が、脳内に響いた。
その場に蹲り、ゔーゔーと唸りながら頭をガシガシと掻き回した。気狂いみたいになりながら、ダラダラと額から汗を垂らし、ぎゅっと目を瞑る。
「んじゃ、ぜーんぶあげちゃうからやってみなよ。何だっけ?イケメンになったら出来るんでしょ?」
「きゃー、イッケメーン‼︎こっち向いて〜!」
「チヤホヤされたいだけだろ」
「顔だけでやってけるかなぁ?」
「また上手くいかないよ。他人のせいばっかりで。君は生きていくのに向いてない」
「環境のせいですよ、責めちゃいけませんわ」
「37歳にもなって、子供かよ」
僕を刺す言葉に、ドンッと背中を押された。
あっ、落ちる。
「人生再テスト、スタート!」
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