#1 前夜

 希望ホープ正義ジャスティスドリームハーツ勇気ユウキゼン


 そうなぞらえられた俺たちは、そうして“お父さん”の教えの通り、あの日から“家”から出ることを禁忌とされた。


 俺たちは今、窓もなく、陽光も当たらない暗い“家”にいる。

 時計もないから時間に囚われることもないこの部屋が、俺は大嫌いだった。


「ん……んん……」


 時間の概念はないとはいえ、俺たちは普通に飯を食い、“お父さん”から勉強を教わり、“カウンセリング”をして、風呂に入ってベッドに入る……そんな普通の生活をしている。


 つまり、何が言いたいかというと────。


「おーはよっ、ゼン!」


 この女独特の柔らかさと重み……これを感じれば、俺たちにとっての“朝”が来たってことだ。


 俺の横たわるベッドに御構い無しに毎回飛び込んでくるアホこと、ハーツ。


“お父さん”から最も愛されているこの女は、貞操観念ってものがわりと死んでいる。昔……って言ってもいつからこの家にいるかはしらないが、随分と仲のいい姿をちらほらみかけるが、あれはもうスキンシップを越していると思う。


「はぁ……ほら、起きたよ俺!」

「んふふぅ、もう起きちゃったの?」


 あざといを通り越してうざいほどに、子供とは思えない身体をくねらせながら、俺の顔を覗きこんでくる。

 そう、こいつは俺に何か思うところがあるわけじゃなく……ただ単に“コンプリート”しただけなのであった。


 残念ながら、ここの“家”の紅一点であるハーツ。それはそれはお姫様のように長年扱われたせいで、自分の思う通りにいかない現象を見つけると、自分の身体を掛けて全力で“思い通り”にさせにくる、あばずれ女なのだ。


 俺は、そんなこいつが、“生理的に”嫌いだ。


「毎朝ご苦労さん。邪魔だからどけ!」

「んもう、つれないんだからぁ〜!」


 俺がそう言い切ると、ハーツは諦めたようでずるずると俺のベッドから出て行った。そのままぶーぶーたれながら俺の部屋のドアを開けると、次にジャスティスが入ってきた。


「おはようございます、ゼンくん!」

「ああ、おはよう……」


 小さい目をきらきらさせながら、その場で軽く足踏みをするジャスティス。そんなに朝ごはんを待てないのか、と思いながら、俺も諦めてふかふかのベッドから抜け出した。


「ほんと、何で全員が起きてないと飯食えないんだろうな……」

「まあまあ、生活習慣ですよ、生活習慣!」

「……せやな」


 思わず、“お父さん”の持ってきた推理漫画の登場人物のセリフをパクって、口をついた。


 そんなジャスティスを見やりながら、届かないだろうドアノブを代わりに引いてやると、香ばしいパンの匂いが廊下にまで侵入してきた。


「さ、行こうぜ」

「うっひょー! 今日はなにパン、なにパン!?」


 円卓になっているテーブルには、七つの椅子が揃えられている。この七つ目はいつ“お父さん”が来てもいいように、と用意されている席だ。


 曰く“食卓はぬくもりだよ”、とのことでオーダーメイドしてきたらしい明るい木目調のテーブルの上には、綺麗に揃えられた白い皿の上には食パン、スクランブルエッグ、そして恒例のスイートコーンのスープが用意されていた。


「っはよ〜」

「元気だな、ジャスティス」

「はい!」


 ぼりぼりと頭と腹をかきながらテーブルにつくと、ジャスティスと俺に微笑みをくれる男がいた。ユウキ……俺たちのリーダーみたいな存在だ。


 毎朝……といっても正確な時間じゃないだろうが、毎朝は毎朝だ。その時間に合わせて飯を用意するのは、決まってこのユウキだった。


 手慣れた手つきで皿に乗ってない分のトーストを乗せ、ユウキお気に入りのあんこをトーストに塗りたくる。これで、俺たちの飯が揃った。


「はやく〜食べたいよ〜! う〜〜!」


 我慢できないみたいに、コーンスープの入った皿をスプーンでこんこん鳴らすのは、ここで一番小さいホープだ。


「おいおい、ちゃんといただきます言ってからな」

「う〜〜!! ユウキはやく〜〜!!」

「はいはい、じゃあみんな手を合わせて、」


 我慢の限界のホープに見兼ねたらしいユウキが、急いで手を洗って椅子を引き、テーブルにつく。


「はい、いただきます!」

「いただきまーす!」


 ────ぶつん。

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