超短編集
みり
"私"の話
沈んではいない。浮いてもいない。
私はそこに、二本足で立っていた。
ただ、口を開けばぷかぷかと泡が出るばかり。
辺りを見渡すと、色とりどりの丸い泡が浮かんでいる。綺麗だと思った。だから、真似しようと思った。
でも私の口から出るそれは、形がやけに歪、絵の具に大量の水を入れたかのような薄っぺらい色で、ふよふよと根無し草のように漂っては消えてしまう。
何度やってみても上手くできなくて、早々に飽きてしまった私は口を閉じた。
口を閉じると楽だった。相変わらず息苦しさはなかった。漂ってくる綺麗な泡たちを愛でて、ちらほらやってくる失敗作のような濁った色をのらりくらりと避けながら、気ままに歩くだけ。
私は口を開かなくなった。そうすると時々、喉の奥から何かが迫り上がるようになった。
衝動に逆らわずにそれを吐き出そうとしても、叶ったことは一度もない。口の代わりに目の奥からボロボロと涙が溢れては零れ落ちる。
唇を意味なく開閉させてはなんとか歩みを進めながら、苦しさに腕を掻きむしった。
ゲホッと汚い咳を一つ。
いつの間にか知らないところまで来ていたらしい。ここら辺に泡が漂ってくることはない。私は見慣れない周りの風景を眺めながら影になっているところを探して仰向けに倒れこんだ。遠くに何やらある気もするが、確認するのも面倒だった。
気が向いたら、来た道を辿って帰ろうか。帰り道があるかも知らないけれど、もう少しくらい、こうしててもいいだろう。
どれくらい経ったか分からない。そろそろ寝転んでいるのにも飽きた私は、徐に立ち上がった。さて、帰り道はどっちだったか。
まぁ、いいや。
ぐぐっと大きく伸びをして、今までいた場所を振り返る。そこにはただ、私の寝転んでいた跡がくっきりとついていた。
それが妙に綺麗な形をしていたものだから、私はくすりと小さく声を上げて笑った。
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