よく閉じた少年

エリー.ファー

よく閉じた少年

 その少年は、誰よりも、清潔だった。

 その少年は、誰よりも、遠くを見ていた。

 その少年は、誰よりも、賢かった。

 その少年は、誰よりも、尊かった。

 その少年は、誰よりも、勇敢だった。

 その少年は、誰よりも、純粋だった。

 その少年は、誰よりも、愛を知っていた。

 愛を知っている。

 このことが、少年が全てにおいて勝る一番重要な要素だった。

 多くの人々は、少年のように考えることはできなかった。

 少年は、人を愛していた。人という生き物のすべてを愛していた。

 同じような発言をする者が多くいたことは間違いない。それは正しい。

 けれど、である。

 間違いなく、それは少年のそれとは似て非なるものであった。

 少年以外の分かったような口で語る輩には共通している部分があった。

 彼らの本質は人を愛しているというよりも、自分の優秀さから、人という生き物の多くが自分にとって、質の低いものに見えることとの、居心地の良さから来ているものが普通だったからである。愛しているのではない。見下しやすい。馬鹿にしやすいものに囲まれて気分がいい、という程度でしかない。

 少年は、その点、何か一つ抜けていたと言える。

 家族はいない。

 いるのかもしれない。

 しかし、少年がそこに存在し、認知されるようになってから正真正銘の家族と呼ばれる存在が出てくることはなかった。偶に、父親だとか母親だとかそう名乗って現れる誰かはいた。まともに自分が父親である、母親であると証明できるようなものは何一つなかったが、それでも、少年の身内であることを周りの人間に認めてもらうことは何よりのステータスであった。

 分かりやすく、少年という存在のおこぼれにあずかろうとする者たちが、湧いたのだ。

 少年は、別に困りもしない様子であったし、嬉しがるわけでもなかった。

 少年は。

 いつまでも、いつまでも少年だった。

 ある日、少年が泣いていた。

 誰かが訪ねる。

「お腹が空いたんだ。」

 誰かが思う。

 随分と俗物的だな、と。

 少年は気が付くと誰の注目も受けなくなった。

 少年以外の人たちが思い悩むようなことを少年も思い悩んだことで、同じ種類の人間なのだと気づかせてしまった。当たり前なのだが、少年は、人間である。しかし、どうにか神格化し、どうにか崇めることで、少年は少年以上の何かになっていたのである。

 こうして。

 少年は誰にも世話をしてもらえず、そのまま餓死した。

 幼い少年は、他の人の助けを得なければ生きていけなかったが、誰も助けにはいかなかった。

「私の知っている少年ではないから。」

「少年は、こういう生き物であって、そういう生き物としていてくれなかったら、話が違う。」

「なんていうか、ああいう少年は別にいいんだよね。ほら、なんていうの。こう、求めてる少年ってあるじゃん、それに沿った少年でいてくれないとなんていうか、助ける気とか起きないよね。」

 少年の死体は放置された。

 腐敗し、土に還り。

 そして。

 そこに花が咲く。

 綺麗な花ではなかったが、世界中でまだ誰にも発見されていない新種であった。

 いつか、枯れるだろう。

 誰もがそう思った。

 花は永遠に咲き続けた。

 しかし、誰もその花に注目しないので摘み取られることもなかった。

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