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4階建てのこじんまりとしたビルの中、汚い立て看板のある3階の一室で一人の男が客間のソファーで寝そべっていた。
「なずな」
「は~い?」
「火、くれ」
「またですか!? いい加減自分のタバコぐらい自分で火をつけられるようになりましょうよ!!」
「……っていうか私がいるところで吸わないでくださいよ! 臭いつくじゃないですか!」
ジリジリとタバコの先端を勢いある火が焦がす。
「なずな」
「今度はなんですか……」
「茶」
「ハイ……」
その瞬間、勢いよくドアが開き最後の住人が姿を現した。
「ただいま~。仁ーお前の車のパーツだけd……あっづぅ!」
「お前!!! また抜いたな!?」
「何度言ったらわかる、俺の車を勝手にいじるな。パーツぐらい自分で買え。」
「最近仕事がなかったからパーツ買えなかったんだよ、そんなに怒ることないじゃないか。」
「いや……それは誰でも怒ると思いますけど……?」
なずなが気を利かせたのか、二人分のお茶を持ってくる。その手には灰皿もあった。
「はい、仁さんいい加減地面に灰を落とすのはやめてくださいね。誰が掃除すると思ってるんですか。」
「すまん」
「ほ~ら仁だっておこられt……あついってば!!」
黙っていればいいものを、懲りない男である。
しかし仁の車からパーツが抜かれるのも、それによって雅史が腕を焼かれるのも、すべて仕事が無く暇だからだ。このままでは仕事に必要な道具も補充できなくなってしまうだろう。
灰皿に吸い殻を積み上げながら仁が口を開く
「このままじゃHEDや弾の補充どころか、クソまずいタバコの買い足しすらできなくなる。なんでもいいから仕事は持ってこれないのか?」
そんな言葉に反応するのは事務所の所長でもある雅史だ。
「めぼしい仕事は全部持ってかれちゃってるよ、あとは受ければ受けるほどこちらに損益しかでないような仕事ばっかりだった。」
「ええっ! じゃあ私のお給料とかどうなっちゃうんですかぁ!? ただでさえすくないのにい!」
この中で一番の薄給、なずなが悲痛な声を上げる。戦う技術がない為、事務所内でできる仕事しかできないのだ。
「このままじゃタバコどころじゃないですよ! ご飯も食べられなくなったらどうするんですか!」
「そうなんだよねえ……そうだ! なずなちゃんがどこかでバイトしてくるっていうのはどう?」
「よしんばバイトをしたとしてもお二人の食事は絶対に用意しませんからね……」
このような冗談の応酬でごまかしてはいるが、兼城傭兵事務所の財政は非常に危ないところである。
「なずな」
「はい?」
「飯」
「ねえ、今の話聞いてたんですか!? よくもまあこの状況でそんな要求ができますね!?」
「む……ないのか……」
「作ればいいんでしょ! 作れば!」
肩を怒らせながら事務所内のキッチンへ向かうが、冷蔵庫を開けたなずなの目に入ってきたのは、何も入っていない中身だけであった。
「仁さん、ご飯はおあずけです。」
「
「食材がありません」
「あちゃあ……じゃあ買い出しも行かないといけないね。」
ただでさえ少ない金がまた出ていくというのだ、いくら食事のためとはいえ苦い顔を隠し切れない兼城であるが、そこに火種を注ぐ男が一人。
「材料がないなら外で食うことにしよう」
「だから今はお金がないっていってるだろう!?」
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