220話 帰還

「祐くん私疲れちゃった〜」


「おいおい葵。そんなこと言うほど体力ないわけじゃないだろ?」


 確かに結構坂を歩いたり慣れない道を歩いたりしたけど葵だってキツいトレーニングをこなしてきたんだ。


「むぅ。祐くん私を鋼の身体の子だと思ってない? 私だって普通のか弱い女の子なんだからね」


「分かってるよ。後ちょっとで宿泊先に戻るから頑張って」


 流石にここでおんぶとかするわけにはいかない。出来るだけ俺の方に寄ってもらってゆっくり歩く。


 葵は「すごい密着〜」とか嬉しそうに言ってた。


 本当は全然疲れてないんじゃないか?


「そろそろホテルだぞ。先生の前ではちゃんとすること」


「え〜? 先生の前でも見せつけちゃおうよ」


「だーめ。そこは我慢すること」


 そこまで言うと葵もしぶしぶながら「じゃあフロントに着いたらね」と言ってくれた。


 そういえば葵と付き合う前までずっと真面目な生徒だったから、先生からもすごい驚かれたな。「え! このクソ真面目な神子戸が!?」って現代文の先生に言われた。


 そこまで驚かれることなのかと思ったけど、周りも(部員以外)びっくりしていた。


「本当に人生ってどうなるか分からないな」


 葵が来てからここまで変わったよ。って去年の俺に言ったらどうなるだろう。葵と再会出来たって教えたら腰を抜かすかもしれない。いや、嬉し涙を流すかな?


「祐くんどうしたの? すっごく顔がニヤけてるよ」


 頭の中でそんなことを考えていてつい顔に出てしまったようだ。


「ううん。なんでもないよ。ちょっと嬉しい考え事」


「え〜! すっごい気になる〜!」

「あははっ。秘密秘密」


 そんな感じで歩いているとついにホテルに到着した。先生に戻ったことを伝えて名簿にチェックしたら葵とはお別れだ。


「ふぇーん祐くん離れたくない」


「夕食の時にはまた会えるから。それに周りの目がやばいから」


 ここはまだホテルのフロントだ。エレベーターが降りてくるのを待っている間に言われたので周りに人も結構いる。


 生徒の帰りを待つ先生たちもすぐそこにいて俺の方を見てニヤニヤしている。1人、悔しそうな顔をしている生物の先生。この人そういえば未婚だった。


「エレベーター来たし一回乗ろうか。そうだ葵。聞いておきたいことがあったんだ」


「なーに?」


「今日は楽しかった?」


 俺の問いにとびっきりの笑顔で


「うんっ! すっごく楽しかった! 一生の思い出!」


 そう言ってくれた。そこまで言ってくれると色々計画した甲斐があるってものだ。

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