334 現状(1)


 イングリッド教国に入った。

 ダンジョンの街タスクからは馬車で3週間と言ったところだ。途中途中で炊き出しやセルジュ様の演説や説教などを行っていたので実際にかかった日数は倍くらいだ。


 一月以上かかった計算になるが、元々獣人大陸へまで訪れての協力要請だ。船での移動などには遅れが出るのは一般的なので時間は流動的だ。なので教会の方でも戻ってくる時期は把握していない。


 教国に入ったときに先触れを出したが、それくらいだ。教国はそれほど大きくないので国境から3日もあればついてしまう。




 わあぁぁぁあぁあぁぁぁあ!


 聖女様バンザーイ!


 女神様バンザーイ!



 首都アラートに入った途端に市民の絶叫が聞こえる。

 どうやら先ぶれで、セルジュ様が戻ってくるのが分かって、市民にも情報共有したようだ。

 現在進行形で魔族からの脅威を感じている市民からすると、聖女様が王都にいるというだけでも心強いのだろう。


 門を入った時点で歓声は起きていたが、門の脇にとまられたいたパレード用の馬車に乗って移動するとさらに歓声は大きくなった。


 ちなみに俺は一般人向けの門からギルドカードを提示して普通に入った。セルジュ様と一緒にいるところを見られる何言われるか分からないからね。



 セルジュ様が通った後の大通りをゆっくりと歩いていく。市民はセルジュ様が見えなくなったら解散していくのでそれほど混雑はしていない。


「ジン様、教会から喚問されてますが、どうされますか?」


 喚問って良い意味で使ったっけ?

 まあいいか。要はお偉いさんが俺に会いたいってことだな。セルジュ様に雇われたけど、お金を出すのは教会だ。これからの活動にも関わるから早いうちに会っておいた方がいい。


「ああ、明日にでも向かおう。今日はパレードでそれどころじゃないだろうし」


 これだけのパレードだ。教会もてんやわんやになってるだろう。ゆっくりと話をしようと思ったら明日にした方がいいだろう。


「じゃあ宿を探しましょうか。ギルドで聞くのが早いでしょうか?」


「そうだな。ギルドの紹介なら間違い無いだろうし。ついでに魔族の動きについても情報収集しておくか」


 俺は教会からだけでなく、一般人が持っている情報からも情報収集する必要を感じている。えてして上層部と言うのは大きな流れしか考えてないものだ。一般市民にどう言う影響が出てるかなどはギルドの方が把握している。





「すいません、ギルドマスターはいますか?」


 俺は受付でギルドカードを見せて問いかける。


「Sランクですか。少しお待ちください」


 受付嬢は奥の方に引っ込んでいった。確認に行くと言うことはギルド内にはいるのだろう。


「どうぞこちらへ。ギルドマスターがお会いになります」


「ああ、ありがとう」


 奥に案内されると、場所は2階だった。どうやら2階へは奥からしか行けない作りになってるらしく、階段は一番奥にあった。



 コンコン


「入れ」


「Sランク冒険者のジンさんをお連れしました」


「うむ。ジン殿、よく来てくれた。今の時期にこの国に来ると言うことは魔族との戦いに参加してくれると言うことで間違ってないだろうか?」


 最初から俺の目的を把握してるようで結構なことだ。迂遠なやりとりは時間の無駄だ。


「ええ、実際は教会から雇われたんですが、魔族対策に呼ばれました。

 ただ、魔物に関してはギルドで対応すると言う話でしたのでこちらで話を聞いておこうと思って来ました」


「うむ。何度か撃退はしたが、魔物はまだ多数残っておる。

 首都を包囲するほどの数ではないが、商業活動に影響が出ておる。それに魔族が襲撃を仕掛けてくる時はどこから来るのか、魔物が一時的に増えるのがわかっておる。

 昔の文献では魔族が魔物を使役するとあったから、なんらかの方法で集めてるのかもしれん」


 まああの残念魔族もゴブリン召喚してたしな。


 その事をギルドマスターに話すと、納得したように頷いた。


「そうか。召喚か。それならば襲撃のたびに魔物が補充されてるのも納得がいくな。その魔族が召喚したのはゴブリンだったのだな?」


「ええ、ゴブリンが10体でした。自分で訓練したと言ってましたから何らかの方法で従えてるのは間違い無いとおももいます」


「だとすると問題はどの程度召喚できるかだな。

 召喚魔法自体伝わっておらんから推測もできん。魔族の魔力は大きいと言うし、結構な数を用意できるのかもしれんし。困ったもんだ」


 多分魔族は魔族の大陸から召喚してるんだと思うから、限りはあると思うんだけどね。魔族の大陸にも別に無尽蔵にいるわけでも無いだろうし、全ての魔物を従えてるわけでも無いだろうし。


「だが、限界が分からん以上、無限に湧くと思った方が良いな。

 ならば鍵となるのは召喚もとの魔族か。

 魔族はジン殿が倒してくれると言う事でいいのだな?」


「ええまあ。ただ俺の体も一つしかありませんので複数の魔族が現れた時は教会に立て籠もって防衛戦をする形になるかと思います。

 その場合は首都自体の守りは騎士団と冒険者でお願いすることになります」


「まあ仕方ないことだな。そうならん事を祈ってよう」


 ある程度は先に減らすつもりだからなんとかなるだろう。なって欲しいな。



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