331 コースケ


 それからは順調な旅路だったが、途中の村や街で炊き出しや聖女の治療祭りを行っていたら結構忙しかった。


「ジン様、教会の信仰心のためにご助力ありがとうございます。ですが、食料も含めて結構なお金を使ってらっしゃいましたが大丈夫ですか?

 ジン様の探索費用以上に使ってるように思えますが」


「いいんですよ、これで。

 それよりもセルジュ様の名前を勝手に使ってしまい申し訳ありませんでした」


「それは構いませんわ。この程度で教会の名声が上がるなら安いものです」


「そう言っていただけるとありがたいです」


 そんな話をしていると、王都ベスラートの街が見えてきた。もう数時間くらいで着くだろう。



「王様出せって言ってんだろうが!何度言わせるんだ!

 俺様は魔王軍四天王が一人パルスェット様の配下のギャブレット様だぞ!とっとと王様連れて来い!」


 あー、なんか門で揉めてるな。

 誰だか知らないが、そう簡単に王様に会えるわけがないだろうに。


 ん?魔王軍?


「魔王軍かなんか知らんがお前みたいな怪しいやつを王都に入れるわけにはいかん!とっとと立ち去れ!でないと捕まえて臭い飯を食わせるぞ!」


「黙れ!下郎!

 魔王軍で知らぬもはいないはずの、パルスェット様の部下の部下の部下であるギャブレット様に口答えするんじゃねえ!」


 えっと、はず、とか部下の部下とか言ってるし、こいつもしかしてペーペーか?


「もういい!実力駆使で通らせてもらう!

 いでよ!」


 魔族とやらが叫ぶとそいつの周辺に魔法陣が現れ、何かが召喚されるようだ。



「ジン様、これは助力した方が良いのでは?」


「いや、なんか下っ端ぽいし衛兵でも何とかなるんじゃないですか?

 対応できるのに俺たちが横から手を出したら逆に恨まれますよ」



 どんな魔物が召喚されるのかと思ったらゴブリンだった。それが10体。


 衛兵も一瞬パニックになったが、出てきたのがゴブリンだと分かったら顔に余裕が出てきた。


「ふん、ゴブリン10体程度呼び出したところで何ができる!我々をなめるなよ!」


 騒ぎを聞きつけた奥にいた衛兵たちが集まっている。あれだけいればゴブリンなんぞ問題ないだろう。


 俺たちは少し離れたところで馬車を止めて様子を見守っていた。



「ぎゃぁぁあ!」


 ゴブリンのくせに剣を持ってると思ったら、結構様になった剣筋で衛兵に切り掛かった。

 衛兵も訓練はされているのだろうが、ゴブリンとはいえ武器を持ったらそれなりに脅威だ。その上でそれなりの剣の腕となると荷が重いかもしれない。

 俺はちょっとだけ近寄って念のために待機した。


「さあ、ゴブリン共よ、人間どもを蹂躙せよ!」


 魔族が叫ぶと、他のゴブリンも一斉に衛兵に飛びかかった。


「ギャァぁあぁあ!」


 次々と衛兵がやられていく。


 流石にまずいと思った俺は介入する事にした。


「おい、何やってんだ?!」


 俺はこの瞬間にもやられそうな衛兵を突き飛ばしてゴブリンの剣を受け止める。

 もう何人か切られてるから全員を助けれないかもしれないが、これ魔族の横暴を許すわけにはいかない。

 こういうのは勇者の仕事だと思うんだけど、まだ召喚されてないらしいし仕方ない。


「おい、そこの魔族!今すぐにこいつらゴブリンを引き連れて逃げ帰るっていうなら見逃さんでもないぞ!」


「はっはっは!笑えることを言うな!

 こいつらはただのゴブリンじゃねえ!この俺様が10日もかけて訓練した精鋭だぞ!お前なんか一瞬でミンチにしてくれるわ!」


 10日?短いような気もするが、成長の早いゴブリンには十分なのか?


 俺は風の刃を放出してゴブリンの首を跳ねる。どんなに剣の腕が上がろうがゴブリンはゴブリンだ。首を落とされたら死ぬしかない。


「え?おい!お前ら何死んだふりしてるんだ!あいつを殺せ!」


「おいおい、それはないだろう。こいつらはちゃんと役目を果たしたぞ?俺にやられるって役目をな!」


「人間に慰められるゴブリンの身にもなってみろや!」


「死んだゴブリンはいいゴブリンだ。昔の人は良いこと言ったな」


「ばかな!俺が手塩をかけて育てたゴブリンが一撃なんて!そんな訳ない!これはきっと夢だ!そうに違いない!

 現実の俺は格好良く人間どもをちぎっては投げ、ちぎっては投げしてこの王都を滅ぼしてるんだ。そうに違いない。

 よし、人間!お前の名前を聞いてやろう!このギャブレット様に名乗る栄誉を与えてやる!」


「俺の名前はコースケだ!頭の悪いお前にも覚えれるようにもう一度言ってやる!俺の名前はコースケだ!」


「コースケだな!夢の中とはいえその力、覚えておくぞ!さらばだ!」


 魔族は懐から取り出した魔石のようなものを地面に叩きつけると一瞬魔法陣が展開し、魔族の姿は見えなくなった。


 しばらく周囲を警戒したが、動くものはなかったので多分転移のアイテムかなんかだろう。そのアイテム欲しいな。どこまで転移出来るのか知らないが、高く売れるだろう。


「コースケ殿、助力助かりました。高名な冒険者ですかな?」


 衛兵隊の隊長と思しき人が声をかけてきた。


「あ、俺の名前はジンです。一応Sランクです」


「は?さっきはコースケと名乗っていたような」


「あんな訳のわからない奴に本名を名乗る訳ないじゃないですか」


「なるほど。ではジン殿、王都ヘの御用向きは何ですかな?」


「あ、聖女様の護衛できました。よければ王様に謁見の許可をお願いできれば嬉しいです」


 セルジュ様が一緒だからね。流石に王都に来て素通りは出来ない。




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