329 盗賊襲撃
「シグルド様から聞いております。Sランク冒険者のジン様ですね。これから20日ほどよろしくお願いします」
「ええ、お任せください。聖女様もいらっしゃいますので怪我をしても安心ですよ」
セルジュ様の回復魔法をそんな使い方をするのもどうかと思うが、ここは聖女様の名前を前面に出すべきだ。炊き出しは一般市民向け、これは商人向けだ。貴族向けは順次街を回ったときにすれば良いだろう。
「それで昨日は炊き出しを行ったと聞いていますが、食料はどこで手に入れられたんでしょうか?私どものギルドで把握してる限りではあれほどの余裕はなかったはずなのですが」
おっと、商人ギルドなら余剰食糧の量を把握しててもおかしくないか。
「ええ、ちょっと手持ちがありましたので。この町にあった食料は使ってませんのでご安心ください」
「その食料はまだあるのですかな?あるようでしたら少し分けていただけると嬉しいのですが」
さすがは商人。こういう所では抜け目がないね。だけど、これから先、まだ炊き出し何かを行うことを考えたら商人に譲れるほどはないんだな。
商売として考えると結構な量が必要になるからね。まだ麦もオーク肉も残ってるが、これは今後必要になるものだ。売るわけにはいかない。昨日の炊き出しでも麦や肉が無くなったと言ったが、それはこの町で使える量が無くなったという意味だ。
特にオーク肉は大量にストックがあるからね。オーク肉って普通に出回ってるから、普通の街で売っても大した金額にならないから溜まってく一方だったんだよね。この機会にインベントリの在庫整理も兼ねている。
「残念ですが、売れるほどの量は残っておりませんので。炊き出しの前だったらお譲りできたんですが」
「いえ、そういう事なら仕方ありませんな。炊き出しの方が重要です。私たちも頑張って仕入れてはいるのですが、追いついてない状況でして。
一食とはいえ住民には貴重な食事です。私が街を代表するのはおこがましいですが、お礼を言わせてください」
この人はこの街の出身なのかな?この街で商売を頑張ってることを考えたら可能性はあるな。だったらちょっと聞いてみようか。
「この街の新しい領主様に関してなんですが、何か知りませんか?」
「ああ、それでしたら噂程度なら知っております。民の事を考えてくださる良い領主様だそうです。今はまだ施政に反映されてませんが、すでにザパンニ王国に支援の追加を要請しているようです。
一月もすればさらに麦が届くと思います。値段が下がるほどは無理かと思いますが、食事事情は改善されると思います」
そうか、良い領主なのか。もうちょっと縁を結んどけばよかったかな。
「では出発しましょう。お話は旅の途中でおいおいという事で」
馬車10台によるキャラバンは俺たちを乗せて出発した。
一番前に俺が乗り、真ん中にセルジュ様とマリア、一番後ろにクレアという配置だ。先頭と最後尾は魔物の発見が最重要スキルなので俺とクレアが担当する。
夜の見張りは商人たちも行うが、俺とクレア、マリアの三人で交代で行う。ちょっと大所帯なのでたまに巡回して異変を察知できるようにしようと思う。
港街ロアナを出た日の夜、襲撃を受けた。盗賊だ。
多いとは聞いていたが、まさか当日の夜に襲われるとは思ってなかった。この国の盗賊事情を甘く見ていたかもしれない。
だけどまあ、そうそう実力のある盗賊がいるわけもなく、俺たちを見張ってたのはバレバレで、クレアを二重尾行させたら簡単にアジトがわかった。
アジトと言うにはお粗末だが、半洞窟に住んでいた。半というのは盗賊五人が雨風を凌げる程度の深さしかなかったからだ。
五人が固まった所で魔法でバン。こんな所で盗賊やってるやつからの情報なんて意味がないし、所帯も小さいから賞金首になってるということもないだろう。だから冒険者ギルドに報告する必要も感じなかったので、さくっと退場してもらった。
その考えは正しかったようで、それからも毎日のように盗賊が現れた。実際に襲われたのは一回だけだったが、それ以外は少人数で実力もなく、ただの貧困者がどこからか持って来た剣を装備してるだけの集団だった。
見張ってる人もいかにも農家です、と言った風情で、その見た目のせいで一度見逃してしまったのが襲撃された理由だ。
その襲撃もキャラバンの中程にいたマリアが一人で制圧してしまったので、俺の出番はなかった。
商人はさすがはSランク冒険者のパーティーだと言ってくれたが、正直Cランクでも十分だと思う。まあそのCランクの護衛すら雇えない状態だったんだけどね。
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