303 名前が売れてれば良いってもんじゃない


「さて、お主には早速依頼がある。受けてくれるかの?」


 やっぱりきた。多分断れない系の依頼だよね?


「内容をお聞きしないと返事しかねます」


「まあそうじゃな。国の北に山脈がそびえてるのは知っておるか?」


「いえ、知りません」


「うむ、その山脈にドラゴンが住み着いたという報告が上がっておる。

 ただ、騎士を調査に向かわせたが発見できなんだ。

 だが、その後も見かけたという報告が途切れんのだ。

 その調査を頼みたい」


 ドラゴンが住み着いたって大ごとじゃん。下手すれば国の存亡に関わるよ?!


「まあ騎士が行っても見つからんかったじゃから、ドラゴンではなくワイバーンだったとかじゃろうが、結構な数の報告が上がってきておるので放っておくわけにもいかん。ちょっと行って調べてきてくれんかの」


 ちょっと行ってって、ドラゴンだったらどうすんの?!


「まあもしもドラゴンだったら鱗でも持って帰ってくれればええ。証拠さえあれば騎士団を動かせるからの」


 鱗って、それって戦えってことじゃん。いや、ドラゴン倒したことあるよ?でももし俺よりも強いドラゴンだったらどうすんの。


「まあそう怯えんでも。これまで1000年間、ドラゴンがいたと言う報告は何度もあったが本当だったことは一度もない。今回もその類じゃろうて。

 てだれのお主が行っても見つからなんだとなれば他のものも納得するじゃろう」


 早速俺のネームバリューを利用する気ですよ。この人。


「協会からも同じ山脈で依頼があります。おそらく同時に達成できると思いますので、ここで依頼させてもらいます。

 北の山脈の西側に1000年前にご先祖様がこの地にたどり着いて最初に立てたと言われる教会があります。その教会には聖遺物を納めたという記録が残っているのですが、実物は今になっても発見できておりません。魔法に明るい巫女殿ならば発見できるのではないかと思っております」


 ああ、こっちは普通の依頼だったか。いや、1000年見つからなかった物を探せってのは普通じゃないよね。


「巫女殿が見つけられなかったのなら残ってないだろうと他の者も納得するでしょう」


 あら、こっちもネームバリューの利用でしたか。


「なかったという証明はどうすれば良いんでしょうか?」


「なかったという書類にサインをしてもらえれば結構です。なんなら今書きますか?」


 おう、無いの前提ですか。


「あると思うから毎年調査の予算を計上する必要があるのです。一度の出費で予算を削減できるならするべきです」


 ふむ。方向性としては間違いじゃないな。


「それに予算の大半は調査に行く神官が着服しているという話もあります。調査には金がかかるのが当然なのでそれなりに計上していますが、水増しして請求しているようなのです。ですが、遺跡の調査に金がかかるのは事実。それにどれだけの金を実際に使ったかを証明するのは難しいです」


 汚職か。教会の腐敗はどこも一緒だね。


「それにその聖遺物が発見されたら、国が報奨金を出してくれるという話になっています。なので発見されたら教会の収入になりますし、なかったら予算の削減になります。これぞwin-winですね」


 違うと思います。


「うむ、その報償金は結構な額じゃからな。もちろん発見者のお主にもある程度は払われるぞ?聖遺物は教会にとっても重要じゃが、王家の資料にはそれは武具じゃと書いてあったのでな。強力な武具を王家が保有しているだけでも王家への求心力は強くなるはずじゃ」


「教会の資料には聖人の遺骨だと載っていました。王家との契約では聖人の遺骨なら教会に、武具なら王家が保有すると決めてあります。そしてどちらが保有するにせよ国の国威の証明になるので褒賞は国が用意する事になっています」


「どちらが発見されても国が払うのですか?」


「はい。もちろん遺骨の場合は教会にはらわれる褒賞は減りますが、それでも結構な金額です。教会も潤うでしょう」


 なんか俗な話になってきたな。


「それで、発見した場合、俺への褒賞はどのくらいになるでしょうか?」


「うむ、白金貨50枚を予定しておる。武具なら10枚上乗せしよう」


 おお、白金貨50枚もあれば借金は間違いなく返せる!セルジュ様、期待していてくださいね!


「その顔は期待して良さそうじゃな。とりあえず発見報告は西側に集中しておるので、まずは北の山脈に行き、山脈沿いに西に向かってくれ。そして西の端で遺跡を調査して終わりじゃな」


「あの、ドラゴンも見つからず、聖遺物も見つからなかった場合の報酬はどうなるんでしょうか?」


「ふむ。国からは白金貨一枚じゃな。教会はどうする?」


「はい、教会からは金貨50枚を予定しています」


「つまり合わせて金貨150枚は保証してもらえるという事ですね?」


「そうなるの」


「わかりました。その依頼お受けします」


 さあ、忙しくなるぞ。誰を連れて行こうかな。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る