293 買い食い
探索者ギルドの依頼にも良いのはなかったし、5日後の鑑定日まで暇だな。
5日もあれば11層まで行って帰れるのに。まあ王都では仕方ないか。
「ジン様、お掃除の邪魔ですわ。退いてくださいな」
「ジン様、そこにおやつを広げられると困ります。机が拭けません」
「ジン様、日中からベッドで寝ないでください。シーツを替えますので、しばらく退いてください」
リリアが家事をしてくれるのは助かるのだが、これじゃあ休日のお父さんだ。家にいる場所がない。
「メアリー、暇か?」
「私は絶対に詐欺を許しませんわ。今、裁判所に提出する訴状を書いてるところですの。用は後にしてくだいませ」
「クレア、暇か?」
「すいません、今日は騎士団に混ぜてもらって訓練することになってまして。あ、急がないと間に合わないです。申し訳ありません」
「マリア、暇か?」
「これから買い物に行くところですが、一緒に来られますか?」
おお、マリアが神々しく見える。うん、荷物持ちでもなんでもしよう。家にいても邪魔にしかならない。
「お、このリンゴ美味しそうだな」
「ジン様、今日はバナナが特売日です。リンゴは今度にしてください」
「お、面白そうな大道芸やってるぞ」
「ジン様、次は野菜を買いに行きます。午前中に買い物を終わらせないといけませんので、寄り道してる暇はありません」
「お、あの髪飾り、マリアに似合うんじゃないか?」
「ジン様、時間が、、、なかなか良いデザインですね。ちょっと寄ってみましょうか?」
時間がないんじゃなかったのか?まあいいけど。本当に買い物だけで外出が終わるのかと残念に思ってたところだからな。
「ちょっと色がきついでしょうか。私の髪だと合わないですね。リリアさんに良いんじゃないでしょうか?お兄さん、この髪飾りいくらですか?」
「おう、それなら銀貨3枚だ。この留め金の部分を見てくれや。細かい彫物がしてあるだろう?こういう目につかない場所にも拘ってるのが俺っちの作品さ」
「銀貨3枚?ちょっと高いのではないですか?これなら大銅貨5枚ってところでしょう?」
「おいおい、冗談いっちゃいけねえよ。この色を出すのに苦労したんだぜ?銀貨2枚半だな」
「苦労はわかりましたが、商品の出来とは関係ありませんね。銀貨1枚です」
「しゃあねえな。銀貨2枚と大銅貨3枚でどうだ?」
マリアは悩んでるのか、頭に手をやっている。
「残念ですが、また今度にします。もうちょっと色の薄いのも作ってくださいね。近くを通ったら寄りますからね?」
「おう、また寄ってくれや」
なんだ、結局買わないのか。というか買うつもりがないのに値切ったのか?
「値切るのも市場の楽しみの一つですわ。私はお金がもったいないので値切る部分だけを楽しんでいます。お金がかからない趣味ですよ?」
そんな事趣味にしなくても買ってやるのに。
「お、美味しそうな串肉売ってるぞ?」
「ジン様、これから帰って昼食を作るんですから買い食いは控えてください」
「お、あの肉、オークジェネラルのじゃないか?」
「あ、本当ですね。100グラム大銅貨5枚?高いです。普通のオーク肉なら100グラム銅貨3枚ですから」
うーん、もしかしてマリアは結構お金にシビアなのか?
「前には高級旅館で2週間も泊まってたと思ったが?」
俺が依頼でいない間、温泉宿で2週間、それも高級宿で泊まっていたのだ。あの時は金貨単位でお金が飛んでいったんだぞ?
「あ、あの時はリリアとメアリーがどうしても、というからで。私一人だったら一番安い宿に移動してました」
あ、リリアとメアリーが良いと言ったら良いんだ。
「そ、その。温泉は気持ちよかったですし。ベッドもふわふわで。料理は美味しくて、ワインは上等で。掃除もしてもらえますし、昼寝も出来ました」
ああ、そりゃ最高級の待遇だろうね。
「リリアは貴族ですし、メアリーは王族ですし。こういうのにはお金をかけても良いって言われたので」
まあそうなんだけどね。2週間は長いんじゃないかな?
「ジン様が帰ってきた時に宿が変わってたら行き違いになるかもしれないと言われてしまって」
そういうことはあるかもね。でも誰か一人だけで良かったんじゃないかな?
「一人だけだと不公平だという話になって。私とクレアの二人は安い宿に泊まろうと言ったのですが、私たちは家族だと言ってくれまして。家族は全て一緒でないとダメだと」
まあ俺も家族だと思ってるから良いんだけどね。買い食いくらい良くない?
「今日はリリアが作るって張り切ってるんです。ジン様がつまみ食いして帰ったと聞いたら悲しむからダメです」
ああ、今日はリリアが作るのか。リリアも大分料理が上手くなったからな。気合いが入ってるなら期待できそうだ。
「という事で買い物も終わりましたし、素直に帰りましょう?」
「ああ、わかった」
こんな話し方されたら買い食いなんか出来るわけないじゃないか。
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