269 逃走
「はあ、結局逃げてきたのかい?」
「ええ、あれはどうしようもありません。<光魔法>で浄化も出来ませんでしたし、魔法も透過されたんではどうしようもありません。私では力不足だったようです。申し訳ありません」
「まあ仕方ないね。でも一晩保たなかったから報酬はあげれないよ?」
「仕方ないですね。そういう契約でしたから。でもこのまま続けても結果は変わりませんよ?」
「爺さんの思い出の屋敷だからね。時間が解決してくれることを祈るさ」
それで良いなら俺が何か言うことでも無いけどね。
「ジン様!生きておられたんですね!」
マリアが駆け寄ってくる。どうやら宿の前で徹夜したようだ。勝手に殺すなと言いたい。
「ああ、依頼は失敗だったけど無事だよ。心配かけたな。中途半端な時間だが、今からでも休んでくれ」
マリアの頭を撫でながら休むように言う。
「いえ、おかえりになられたら起こすように言われていますので、リリアとメアリーを起こしてきます!」
おや、二人は寝てたのか。信頼と取るか、薄情だと取るか。信頼だと思いたいね。
「それで幽霊はいたんでしょうか?」
「いた。それは確実だな」
「じゃあ、浄化したんですか?それなら夜中に帰ってきたのも納得ですわ」
「いや、浄化は出来なかった」
「え、浄化しなかったんですか?」
「いや、しなかったんじゃない、出来なかったんだ」
「え?え?幽霊だったんですよね?依頼は幽霊の討伐じゃなかったんですか?」
「確かに幽霊の討伐が依頼だったけど、本物の幽霊だとは思わなかったからな。どうしようもなかった」
「本物の幽霊?偽物がいるんですか?」
「ああ、アンデッドじゃ無い本物の幽霊だ。俺も存在するとは思ってなかった。あれはやばいな」
あ、リリアが気絶した。メアリー、そのままベッドに寝かしてやれ。
「あの、ジン様、それではその幽霊は、、、?」
「まだそのままだな。依頼は失敗だ。剣も魔法も通じない相手に勝てるわけがない。まだ神と戦う方が現実味があるかもしれないぞ?」
「そんなに。。。」
マリアの言いたい事もわかるが、俺にも出来る事と出来ない事がある。魂は俺ごときがどうこう出来るわけがない。古来から魂の存在は神の領分だとされていたのだ。もちろん地球での話だが。
翌日、というか戻ってきた後数時間後だが、朝食の席で改めて依頼の失敗を報告した。
「ジン様でも討伐できなかったんですね。そんな魔物がいるなんて思いもしませんでした。本当にアンデッドじゃなかったんですか?」
「ああ、浄化も素通りしたからな。間違いない」
リリアよ、俺の戦闘力を評価してくれているのだろうが、諦めてくれ。
「やっぱり依頼失敗ですね。生きて帰ってきたことを褒めるべきでしょうか?とにかく依頼失敗の報告は受け付けました。依頼失敗のペナルティの銀貨10枚をお願いします」
は?依頼失敗のペナルティ?そんな話は聞いてないんだけど。
「依頼には責任が発生します。失敗自体は仕方のないことですが、それだけで許されるなら誰でも無謀な依頼を受けます。なので失敗の際にはペナルティが発生します。
通常の素材の納品であれば依頼の受注自体が納品と同時ですので依頼の失敗という事はありえないのですが、今回のように何かを達成するという類の依頼の場合はペナルティが設定される事がほとんどです。今回の場合は一晩でも過ごせたら銀貨10枚という設定でしたので、ペナルティも同額に設定されています」
「いま初めて聞いたんですけど?」
「探索者なら誰でも知ってる事です。でなければ、一晩いるだけで銀貨10枚の依頼が残ってるわけがないでしょう?」
まあ確かに美味しい依頼の割には残ってるのがおかしいとは感じてたんだよね。
「ということで銀貨10枚お願いします」
「もしお金がなかったらどうなるんですか?」
「ないんですか?それなら借金奴隷の手続きをとりますが?」
「いえ、払います。払わせてください」
怖ぇ。依頼失敗で借金奴隷なんて洒落にならん。冒険者ギルドよりも厳しいんだじゃないだろうか。
素材の納品だけやってるのは何も理由がないわけじゃないんだな。こんなペナルティがあるんなら受けたくないわな。
あれ?これって俺史上初めての依頼失敗じゃないか?
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