251 不思議な少女 続


 時間の経過ははっきりしないが、結構な距離を歩いた。

 右手法に従って一度右に曲がったが、それ以外は曲がり角はなかった。


 水も飲み尽くした。魔法はまだ使えない。食料もない。持ってるのは剣が一本。


 一人でもダンジョンなんて怖くないと思っていたが、魔法が使えないだけでこれだけ無力になるとは。最低限の水と食料は普通の鞄で運ぶべきだったな。



 さっきから気になっているが、あえて無視していた事がある。

 歩くにつれて腐敗臭がするのだ。


 さっきまではゴブリンばかり出ていたので、あまり考えたくはなかったのだが、アンデッドがいる可能性がある。それも腐敗臭からしてゾンビだ。

 <神聖魔法>が使えれば全く怖くない敵だが、剣しかない今の俺に取って非常に厄介な敵だ。

 別に倒せない事はないと思う。だけど、真っ暗な事とゾンビがタフな事を考えると、勝算は低いとしか言えない。せめて光があればまだなんとかなるんだが。


 戻るか?


 徐々に匂いが出てきた事を考えると、この先にいかなければゾンビを回避できる可能性もある。この階層の魔物が全部ゾンビじゃないとすると、だが。



 ピチャ、ピチャ


 嫌な音だ。水がポタポタ落ちてるのなら良いんだが、どうも前の方から音が聞こえる。そうだな、認めよう。ゾンビの歩く音だ。


 ズルズル


 後ろを向いて逃げるか、適当に剣を振って倒せるのを期待するか。



 当然、逃げる。

 後ろを向いて左手方でひたすら歩く。ゾンビの動きは遅いので慌てずに早歩きくらいで戻る。追いかけて来たとしても追いつけないだろう。


 ひたすら歩く。だんだん眠くなってきた。別に眠りの魔法とかじゃない。単純に夜になったのだろう。



 魔法で障壁も張れない場所で寝るなんて死にに行くようなものだ。

 限界まで徹夜してでも動き続ける必要がある。俺の最長徹夜は3日だ。今の緊張具合だともっと少ないかもしれないが。


 <神聖魔法>の魔力を循環させて体力を回復させながら歩く事にしよう。




 喉が渇いた。


 多分今は3日目だ。とうに元の部屋の辺りは過ぎているだろう。一度曲がり角があった他はずっとまっすぐだ。

 これだけの距離真っ直ぐだと、ダンジョンの幅を超えるんじゃないだろうか?それともずっと広い階層というのが存在するのだろうか?



 眠い。魔物も出ないし、もう寝ても良いんじゃないだろうか?体力はまだ残っているが、眠気が限界だ。



 俺は倒れ込んで、そのまま意識を失った。。。







 ふと、目を覚ますと、目の前にぼんやりとした光がある。誰かに助けられたのか?


 そちらを見ると、半透明のワンピースの女の子がいた。2回ほど見たことのある子だ。図書館の時と馬車の中だったかな。


「はい、、、これ、、、飲んで」


 土で作ったような簡素なお椀に水が入っていた。俺は安全か確認する前に飲み干していた。それくらい喉が渇いていたのだ。


「ふう、ありがとう。君は?」


「ジン、が、、、大変、、、だったから、、、出てきた。ここ、、、魔力、、、ない。私、、、長いこと、、、いれない」


「そうなのか。助かったよ。もしまだ水が出せるならこれに入れてくれないか?」


 俺は空の水袋を差し出す。


「ごめん、、、なさい、、、水は、、、天井から、、、落ちてきたのを、、、集めただけ。。。」


「そうか。いや、それでも助かったよ」


 俺はその子が光っている間にと、周りを見回した。

 やはり石造りの通路のようだ。ずいぶんとくすんでおり、長い年月を感じる。


「そういえば、君の名前は?勝手にファウって呼んだけど。。。」


「ううん、、、ファウ、、、良い名前。ファウ、、、って呼んで」


「それで君は魔力が使えないこの空間でなんで出てこれたんだ?」


「この空間、、、魔法を、、、使うのに、、、大量の魔力、、、必要、、、だけど、、、使えない、、、訳じゃない」


 なんと、強く魔力を込めれば魔法は使えたのか。


「私、、、魔力減った、、、じゃあ、、、また」


 その少女は消えてしまい、また暗闇に包まれてしまった。



 だけど、良い事を聞いた。普通よりも魔力を込めれば魔法は使えると。


 普段の10倍ほど込めると光の魔法が発動した。弱々しい光だが、真っ暗なのからしたら貴重な光だ。

 2メートル四方くらいは見えるようになった。


 ふう。攻撃魔法も10倍の魔力が必要だとすると、俺もできるだけ魔力を省力化しないとダメだな。




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