243 商品の食料


「さて、3日もこの町にいたけど楽しめた?」


「ええ、さすが商業都市ですわね。いろいろとあって楽しめましたわ」


 そりゃそうだろう。俺に追加のお小遣いをねだってきたからな。何かいい物でも見つけたのだろう。


 そうそう、俺たちはお金は基本俺が管理している。他はお小遣い制だ。これは俺しか稼いで無いのが理由だ。みんなには月に銀貨20枚渡している。この額は家持ちの庶民が、一家4人で一月過ごせる金額だ。

 宿なども含めて俺が出している現状、全てが自分のために使える。



 商人の準備が終わり、乗合馬車も出発した。


「また退屈な馬車旅ですわね」


「そうだな。だけど、ダンジョンに着いたらもうこんなにゆっくりもしてられないし良いんじゃ無いかな?」


「ジン様はそうですが、私たちは街でお留守番です。馬車ほどでは無いでしょうが、暇ですよ?」


「じゃあ、王都に残ったらよかったじゃ無いか。田舎で暇なのはわかってただろう?」


「ダメですよ。暇なのは王都にいても一緒です。この国の貴族に知り合いはいませんしね。ジン様と一緒というのも大事な要素です」


「まあ、馬車旅よりは何かあるだろう」




 ちょっと問題が出た。崖のそばを走っているときに、商人の荷物が崩れたのだ。地面がボコボコだったのでゆっくりと進んでいたのだが、それでも崩れてしまったらしい。

 崖は切り立った100メートルくらいの高さがあり、その真ん中あたりをくり抜いて無理やり道にしている細い道だ。馬車がすれ違うのがやっとの幅だ。

 そのせいで、いくつかの商品が崖の下に転落してしまったのだ。


 商人は渋い顔をしていたが、俺のせいじゃ無いので放っておく。


 しかし、商人は放っておいてくれなかった。


「ジンさんでしたな。先ほどの荷物は見られたと思うのですが、崖に落ちた荷物の中に食料が含まれておりまして。ジンさんは保存食に余裕はありませんか?

 次の村で購入しますが、それまでの分が必要なんです」


 ありゃ、食料を落としちゃったのか。


「ありますが、それほど余裕はないですよ?」


 嘘だ。あちこちで大量に購入したので、一年は暮らせるだけは買ってある。時間の進まないインベントリ便利だよね。


「少しで良いんです。分けてもらえませんか?」


 商人は4人だ。次の村までは3日の予定なので、36食。少し減らして30食余ってることにするか。


「30食分で良いですか?それ以上となるとこちらも苦しいので」


「十分です!一食分で銅貨5枚として銀貨1枚と大銅貨5枚でいかがですか?」


「それで結構ですよ。水は大丈夫ですか?」


「ええ、水は樽にいれて馬車の一番下ですので、馬車ごと落ちない限りは大丈夫です」


 フラグじゃ無いよな?まだこの崖続くよ?




 フラグを回収したのか、3台の最後の馬車が通ったときに、デコボコにでも引っ掛かったのか、脱輪してしまった。

 普通なら荷物を下ろして荷馬車を道に戻すのだが、ここは崖の途中だ。余程慎重にやらないと馬車ごと落ちてしまう。


 少しずつ慎重に荷物を下ろしていくが、半分くらい下ろしたところで馬車が崖から落ちてしまう。

 人が落ちなかったのは幸いだが、これで商人の商品は結構目減りしてしまった。多分赤字だろう。


「ジンさん、すいませんが、水を分けてもらえないでしょうか?」


 どうやら水の樽も崖の下らしい。ちゃんとフラグを回収したようで何より。


「構いませんよ。魔法で出した水なので、おいしくは無いと思いますが」


「あるだけで十分です」


 水袋を出してきたので、入れてやる。途中で何度か補充する必要があるだろう。


「はあ、これでは今回の商売は赤字ですね。ジンさん、商品を少しそちらの馬車に積ませてもらえないでしょうか?もちろんお金は払います。馬車に乗せるのは利益率の高い商品だけに限りましたが、それでも1台では乗り切れませんで」


 まあ商人としては少しでも商品を持っていきたいのだろう。運びきれない分は崖下に捨てるしか無いのだから。


「うーん、こちらも5人乗ってるのであまり場所が空いてないんですよね。荷物もありますし。御者さんと相談してくれますか?」


 この乗合馬車の責任者は御者さんだ。乗合馬車は乗る人の荷物は運ぶが、商人の荷物を運ぶのは料金に入ってないし、馬の負担も増加する。



 馬は無事だったが、食料の少ない今、馬の食事分も馬鹿にならない。馬用の飼い葉は下ろしてあったので残っているが、嵩張るだけの飼い葉を載せるか悩みどころだろう。

 だけど飼い葉を載せないという事は馬を諦めるという事。この世界、馬は貴重品だ。引く当てのない馬を食わせるだけに連れていく。これは悩みどころだろう。

 飼い葉を載せる分だけ商品が減るのだから。


 商人は商品を選んだらしい。かわいそうだが馬はここに放置していくそうだ。崖から突き落とさないだけ良いのだろうか?どうせこの場所で放り出されても死ぬと思うけど。


 俺たちは天台を少し詰めて商品を載せてあげることにした。代わりに今回の乗合馬車の料金を持ってもらう事にした。





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