233 魔力だまり?


 馬車に揺られること一月、ようやく発情期が終わったらしい。

 メイドの目線が普通に戻った。


 あんなに発情していた記憶があるのに良く平気な顔して接してくるな。


「ジン様、ようやく落ち着いたようですね。よかったです。これで安心して村に泊まれますね」


「そうだな、リリア。馬車の中で一人はもうごめんだ」


「あら、あんなにモテてたのに不満でしたの?」


「メアリー、モテるのと狙われるのは違う。あの調子では恋愛的な要素は皆無だからな。純粋な肉欲だけで襲われたらたまらない」


「まあ、男性はそういうのも好きなのだと思ってましたわ」


「それはお前だけだ」


「まあ、ひどいですわ。責任とって結婚してくださいな」


「いい加減、全部を責任にする癖やめろ。お前とは結婚するつもりはない」


「まあ、リリアとは責任取りましたのに」


「それとこれとは別だ」


「ひどいですわ」


 そんな気軽なジャレ合いもできるくらいに落ち着いたと感じる。普段通りの会話ができるだけでも幸せに感じるものだ。



 途中の村で一泊したおり、村長の家に泊まったのだが、相談を受けた。なんでも最近ゴブリンが出没するらしい。

 この大陸では森などのテリトリーを持つ魔物が多く、人の領域にはあまり出てこない。今回のもはぐれゴブリンだろう。

 ゴブリン程度なら今の戦力でも十分だし、まず負けることはないので、討伐する事になった。


「それでは、予定外ですが、ゴブリンの討伐を行いたいともいます。ジン様にはご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします」


 フェリス様からお願いされたら協力しないわけにはいなかない。今回の発情期の件では世話になったしな。ゴブリン程度で少しでも恩が返せるなら安いものだ。



 俺たちは村の外れでどういう布陣にするかを相談していた。全員が1カ所に固まるのでは効率が悪すぎるのだ。リリアとメアリーは戦力外として村で待機。俺とマリアとクレアで1チーム。

 フェリス様の兵士たちで2チームと分けた。


 フェリス様はリリアたちと一緒に村で待機だ。


 俺はまず魔力感知を行う。近くにいるなら反応があるはずだ。だが、反応がない。範囲外にまで移動したのか?俺の感知範囲は結構広いと自負している。種族がわかるのはそれほど広くはないが、魔物がいるかどうかくらいは結構な範囲でわかる。

 なんというか、魔物の反応はないのだが、森自体に魔物的な感じがするというか、不思議な感覚だ。この森に特別なものがあるとは聞いてないので、この大陸の森はこんな感じなのだろう。


「この森は魔物のテリトリーになってないのですか?」


「はい。それほど広い森ではありませんし、魔力だまりもありませんので。ゴブリンもはぐれだと思われます」


 フェリス様に確認してもおかしな所はないようだ。やはりこの大陸の森はこういうものなんだろう。



 3チームに分かれた俺たちはそれぞれ違う方向に向かう。森の向こう側で集合の予定だ。


 俺は一番感知範囲が広いということで真ん中を任せられることになった。森の真ん中を縦断するルートだ。一番森の深い場所を通るので、危険も高いルートだ。


 俺の感知では魔物はいないので、動物くらいしかいないはずなのだが、俺の感覚は何者かに見られているような感じを訴えている。狼でも追ってきているのだろうか?


「マリア、クレア、何か見られているような感覚があるんだが、何か気づいたことはないか?」


「いえ、特にはありません」


「私もです」


 二人とも気付いてないらしい。二人とも魔力感知や気配察知などのスキルは持ってないので仕方ないのだが。

 となると俺の感覚が頼りだな。


 俺の後を二人がついてくる。一応後ろからの襲撃を警戒しているのだが、全く気配がしないので拍子抜けしている。



 ふと気づくと、後ろに二人がいない。ちょっと進むのが早かったか?

 しばらく待ってみるが、追いついてくる様子がない。


 仕方ないので少し戻ってみるが、おかしい。道が「登っている」。この森はそれほど勾配は大きくなかったはずだ。こんなにはっきりと登っているのを感じるのはおかしい。


 そして、魔力感知に魔力の反応があった。前方1キロくらいだろうか。魔物の反応ではなく、魔力の反応だ。魔力溜まりかなんかだろうか。フェリス様曰く、この森には魔力溜まりはなかったはずだが。



 目標があるのなら話は早い。行ってみるだけだ。


 森の中を反応がある方向にまっすぐに歩く。魔力感知では魔力溜まり以外に反応はない。



 目標の近くに来ると、森が開けていた。森の木々がそこだけ避けるかのように開いており、下草などもなかった。見ただけではわからないが、魔力感知は間違いなくこの場所を示している。


 じっと見つめていると、その場所がほんのりと光り出した。



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