219 模擬戦 (3)
勝ちはしたが、実際のところ、勝った気がしない。
遠距離だけで倒したからだ。俺のステータスで負ける可能性なんて考えてなかった。<剣術>のスキルに表せられない部分で負けていた。接近戦だったら<体術>も使ってくるだろうし、本当に負けていたかもしれない。
俺は今まで驕っていたのかもしれない。高いレベルとステータスに頼って、技術を磨いてこなかった。もちろん魔物を倒す工夫はしたが、それはしっかりと体系的な訓練した人と比べれば些細なものだったのだろう。
俺が反省している間に、セルジュ様がセルゲイさんを治療していた。飛剣は防いだ様だが、魔法が防げなかった様で、身体中の防具がない部分から血が流れていた。
セルゲイさんは気を失っている様で、治療の後、担架で運ばれていった。
獣人の兵士たちは団長が負けるとは思ってなかったのか、静かだ。まさか襲ってこないよな?
そうすると、次第に歓声が上がりだした。
「すげーぞ!」
「団長を倒すとは!」
「強いな!」
「おー!」
俺への歓声だ。どうやら強いものを敬う文化はまだ根付いていた様だ。
兵士たちが俺に群がってきて、俺は胴上げされていた。いや、剣持ってるから危ないよ?
10回ほど放り上げられた後、一斉に全員が離れた。当然俺は背中から落ちる。痛い。
学生のノリでやる事があるのは知っていたが、まさかここでやられるとは。
兵士たちはその後も興奮状態で、戦いのどこがすごかっただの、あれはこうした方が良かったなどと、模擬戦の感想を言い合っていた。
すると、兵舎の方から樽が運ばれてきた。コップも一緒だ。
まさかとは思ったが、エールらしい。昼間から酒を飲むとは思ってなかった。君たち戦ってないよね?まあ宴会なんだろう。俺たちの模擬戦を肴に。
アキレスさんが俺のところに来て、話しかけてきた。
「強いと聞いていたが、これほどとは思わなかった。彼はわが国でも屈指の実力者だったんだが。良い勝負だった。
ところで、そなたの実力は人間の中ではどの位になるのかな?」
まあ、気になるだろうな。
「私はSランク冒険者ですので、冒険者の中では強い部類に入ります。各国に数人はいるんじゃないでしょうか?騎士団に関しては私は手合わせをした事がないのでわかりかねます」
「そうか。人間の国にも強者はいるのだな。大変参考になった。ご苦労だった。後で褒美をとらせよう」
褒美はこの国の通貨がいいです。言わないけど。
帰りにこの国の通貨で金貨10枚もらった。褒美らしい。模擬戦一回で1000万は美味しいね。
当然使節団からもお金はもらっている。ザパンニ王国の白金貨1枚とラグランジェ王国の金貨10枚。多いのは勝ったかららしい。1億円。Sランクの依頼も美味しいね。国の威信をかけた模擬戦なのでこのくらいは出せるそうだ。
今日はすごく勉強になったし、反省点も見えた。お金より貴重だったんじゃないだろうか?
セルジュ様と一緒に教会に帰ると、ジミーさんが迎えてくれた。
「お怪我はありませんでしたか?」
どうやら騎士団長と試合をするという事で心配してくれたらしい。
「大丈夫ですよ。それなりに鍛えてますから」
嘘です。実際はすごく危なかったです。ちょっと対応を間違えていたら死んでたかも。
今日はゆっくり寝よう。
翌日、ジミーさんが部屋に来て、風呂に誘われた。
「ジン様、風呂はどうですか?人間の国に風呂の風習があるかは知りませんが、体が休まりますよ?」
「え?風呂があるんですか?今まで聞きませんでしたが」
「ええ。毎日風呂を用意できないので、10日に一度入れる様にしています。教会の人間なら誰でも入れますので、ジン様もどうかと思いまして」
とてもありがたい。
メアリーとリリアが顔を輝かせている。これは入るしかない。
「ぜひ、お願いします。何か必要なものはありますか?」
「いえ、タオルや石鹸なども風呂場に用意してありますので、着替えだけお持ちください」
俺たちは勇んで風呂に向かった。
ジミーさんも一緒に入る様だ。
「ご一緒させていただいて申し訳ありません。ですが、貴人専用の風呂というものがありませんので、教皇様もこの風呂に入られます。女性用はもっと頻繁に入れる様にして欲しいという要望が多いのですが、これは経費の問題で今の様になっております」
女性の方が綺麗にしたいだろうしね。
「王宮にもないのですか?」
「この様な大きな風呂はありませんが、一人用の風呂はあると聞いた事があります。ここは直接薪で沸かしていますので、常時暖かいですが、王宮の風呂は、一回毎にお湯を持ってきては入れるので、入ることには温くなっているそうです」
「便利な様で不便ですね」
「はい。これは神官の特権ですね。ははは」
暖かい風呂は王族の風呂よりも贅沢らしい。
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