218 模擬戦 (2)


 セルゲイさんは号令とともに踏み込んできた。下からの切り上げだ。

 俺は合わせるように上から打ちおろすが、セルゲイさんは剣を斜めに傾けて俺の剣をいなし、剣を上段に持っていく。

 やばい、流されたので、俺の剣は下段にある。このままだと間に合わない。


 俺は前に出て肩からセルゲイさんにぶつかりにいく。セルゲイさんはサイドステップで横に避け、横殴りに剣を振ってきた。

 その時には俺も剣を引き戻していたので、剣を受ける。

 するとそのまま押し込んできた。鍔迫り合いをするつもりか?


 体勢としては俺の方が不利だ。向こうは普通に攻撃したのに比べ、俺は振り返りの途中だ。剣を弾くだけならともかく力相撲となれば向こうが有利だ。しかも中段の横薙ぎだったので、下がる以外に避けれない。


 俺は仕方なく後ろに下がろうとするが、セルゲイさんはそのまま剣を突いてきた。

 体ごと横に振ってかわすが、突きの途中で横に変化した。このままだと首に当たる。木刀なら問題ないが、今回は真剣だ。剣を間に挟み込むのも間に合わない。


 俺は瞬間的に足に圧縮した魔力を込めて後ろに下がった。ちょっと足に負担がかかるが仕方ない。


 一旦離れたが、セルゲイさんの方が対人戦になれている。ステータスで上回り、身体強化も行なっているのに押されている。スキルのレベルでは上回っているはずだが、技術で負けている。

 俺が動こうと意識すれば、スキルはその補助をしてくれるが、俺が動こうとしなければスキルで上回っていても勝手に動いてはくれない。


 ステータス任せに力一杯剣を振っても躱されるだろう。<体術>持ってるんだから回避も得意だろうし。


 俺は目一杯身体強化をかけて上段から振り下ろした。これ以上強化すると、体が保たない、限界まで上げた。これ以上の速度は出せない。

 セルゲイさんはあっさりと俺の剣をそらして、その勢いのまま柄で殴りかかってきた。


 まずい。俺は斬りかかるために前に体重がかかってる。下がれない。しかも剣をそらされたので、体勢が悪い。

 俺は打点をずらすために、首を少し傾けた。そのくらいしかできる時間がなかった。

 剣が頬をかすったと思ったら、肘が肩に入った。<体術>の技だろう。


 俺は吹き飛ばされて、転がった。すぐに起き上がったが、左肩が痺れている。

 セルゲイさんは肘を入れた格好のまま、残身の状態だ。おそらく限界まで踏み込んだからだろう。


 しかし、このままでは本格的にまずい。どう攻撃しても反撃されそうな気がする。


 仕方ない。本意ではないけど、魔法を使うか。本当は剣技だけで上回って、実力を見せようと思ってたんだけど。


 とりあえず風魔法を軽く放って様子を見ようとしたら、なんと魔法を切られた。正面からまっすぐに剣を振り下ろしただけに見えたが、魔法がかき消されている。まじか。


 俺は3重で起動してみるが、体ごと大きく剣をふり、一回で3本共切り裂いた。


 よく見ると、剣に魔力がまとわりついている。魔闘術が使えるのか。獣人は魔法が得意でないと聞いていたので、使えないものだとおもっていた。それも俺の魔法をかき消すほどだ。<鑑定>した時のステータスではかき消せるとは思えないので、なんらかのスキルだろう。すごいな。


 俺も魔闘術を使って魔法を切ることはできる。だけど、3重の魔法を1回で切ることはできない。修行が足りないな。今まで問題なかったからと修練を怠った俺が悪い。何がレベル上げだ。技術が伴ってない。


 遠方からの魔力操作は難しいが、セルゲイさんの四方から魔法をぶつける。なんと、斜めにバックステップするだけで躱されてしまった。

 8方向から攻撃するか?いや、対処される未来しか見えない。


 <隠密>で気配を殺して踏み込み、横薙ぎで剣を振る。当たり前の様に躱された。やはり目の前でスキル使っても見逃してはくれないか。


 今度は<闇魔法>で幻覚を見せる。俺が4人に見えているはずだ。四方から攻撃する様に見せる。俺は見せている4人のさらに後ろから魔法で攻撃する。

 4人のうちどれかが本物だと考えてくれれば御の字だ。


 4人の幻覚を見せたら、瞬間にセルゲイさんは目を閉じた。そして俺の魔法を切った。どうやら<気配察知>で幻覚だと看破した様だ。おそらく目を閉じて<気配察知>に集中したのだろう。


 魔法を100ポイントも使って攻撃すれば、魔法を切り裂かれることはないと思うが、それでは殺してしまう。


 これは困った。俺の手札に対応できるものがあるだろうか?


 ずるいかもしれないが、範囲魔法で終わらせてもらおう。


 俺はセルゲイさんを中心に5メートル四方の穴を掘った。深さも5メートルある。ジャンプしても出てこれないだろう。そこに火の魔法を打ち込む。連続でだ。10回ほど打ち込んで、様子を見る。

 たとえ魔法を切ったとしても、中は熱くなっているだろう。対処できなかった魔法の数によっては蒸し焼きになっているかもしれない。


 俺が様子を見ている間に、なんとジャンプして出てきた。5メートルをジャンプした?なんて身体能力だ。俺もできるけど、まさかあのステータスで上がってこれるとは思ってなかった。


 しかし、セルゲイさんの服は所々焼け焦げており、完全には躱せなかった様だ。


 俺は着地する前に右手を狙って飛剣を放つ。左手がしびれたままなので全力ではないが、剣で防いでも撥ね飛ばせるだろう。防げなくても右手が使えなくなれば決着はつく。あとでセルジュ様が直してくれるだろう。


 そして飛剣が届く前に四方から魔法を放つ。これで剣で魔法を斬るのは無理なはずだ。


 魔法の影響で土煙が上がるが、晴れるのを待つと、セルゲイさんが剣を取り落とし、膝をついていた。


「それまで。勝者ジン殿!」





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