207 教義


 夕食時、俺たち護衛は食堂で食事をとったが、セルジュ様たちは別室でコース料理のようなものを食べたそうだ。味は美味しいが、人間の国と比べると薄味だったらしい。

 俺たちが食べたのは賄いなんだろう。少し濃いめの味付けだった。使用人って体力勝負の面もあるからね。マリアは一口一口丁寧に食べている。この国の料理も覚えるつもりだろうか?


 夕食後にセルジュ様の部屋でまったりしていると、領主の使いという人が来て、セルジュ様に目通りしたいとの事だ。特に断る理由もないので、セルジュ様は案内されていった。


 その間に俺たちは今後どうするかの相談をする。

 セルジュ様についていき、この国の観光をするか、自分たちで勝手に見て回るかだ。だが、これは最初から結論は出ている。セルジュ様についていくの1択だ。

 この大陸では冒険者ギルドのカードは身分証明書にならない。なので、自由に街の出入りができないのだ。

 獣人の国に冒険者ギルドがあるのかは知らないが、あるなら早急に登録しておくべきだろう。



 セルジュ様が戻ってきた。前回会った巫女アンリ様との顔合わせだった。本物の聖女か確認したかったのだろう。巫女様が保証してくれたので、セルジュ様が聖女だと改めて確認できたようだ。巫女様は王宮からの使者とは別に神殿からの使者も来ることが告げられた。

 <神託>持ちはそれだけ重要だということだろう。


 俺たちは客人としてもてなされているが、警戒もされている。外出は禁止らしい。少なくとも王宮からの使者が友好的だと認めなければいけないらしい。

 使者がどのくらいで来るのか聞くと、王都とは馬車で3ヶ月ほど離れているらしく、最低でもそのくらいは掛かるとのことだ。鳩便のようなものがないのか聞いたら、空を飛べる鳥人族が配達を担当しているらしい。獣人ってすごいな。



 翌日にはこの街の神殿の代表者が会いにきた。俺は護衛ということになっているので、セルジュ様の後ろに立つ。神殿の代表者は猫耳族でクルツというらしい。男性だ。


「私はこのヤルツで司祭を務めさせていただいています、クルツと申します。人間の巫女で相違ありませんか?」


「はい、わが国では巫女のことを聖女と呼んでおります。現在人間の国で聖女は私一人です」


「なるほど。お互いの教義について確認したいのですが、よろしいですかな?」


「もちろんです。私も女神イシュタル様にお仕えするものとして、教義を説けるのは嬉しい限りです」


「それでは神の名前などから、、、

 、、、、、、

 、、、、、、

 、、、、、、

 、、、ふむ、神のお名前は同じようですな。それで教義に関してですが、、、

 、、、、、、

 、、、、、、

 、、、、、、

 、、、となる訳ですが、これも同じようですな。

 教義は古代王国から続いているのですかな?」


「そう言われていますが、文献には一部しか載っていませんので口伝となります」


「残ってない?それは大丈夫なのですか?」


「はい。教義自体は文献の有無にかかわらず受け継がれておりますので。人間国では数百年前に戦争がありまして、その際に文献の大半が消失してしまったのです。地方の神殿に残されていた文書類は無事でしたが、中央神殿が焼かれてしまったので、本当の極秘の文書は無くなってしまっています」


「それはお困りでしょう。我が神殿には多少ですが、文献が残っております。お時間があればぜひお越しください」


「ご配慮ありがとうございます。時間があれば是非」



 それで神官は帰っていったが、俺は神の話があまり理解できてなかった。セルジュ様に聞くと、ほとんど変わらないそうだ。

 古代王国時代から宗教が続いているのが立証された形だな。それにしても千年以上経っても教義が変わってないのはすごいもんだ。千年変わらずに辿れるのは、日本なら天皇の血筋くらいじゃないだろうか。



 うさ耳のメイドさんにこの国の歴史を聞いてみたが、古代王国時代に種族ごと移住してからはずっと一国だったらしい。最初は誰が国王をやるかで揉めたらしいが、一番強かったライオン族が王家を名乗った。

 ライオン族は全て貴族になったらしいが、時とともに他の種族の有力者が貴族になり始め、今は王族がライオン族出身なのを除けばいろんな種族の貴族がいるらしい。

 獣人といえば、戦闘力で地位が決まるのかと思っていたが、それは建国当初だけで、今は有力な商人が貴族に陞爵されたりすることもあるそうだ。

 逆にライオン族でも領地経営がうまくいかず、平民に落とされたりすることもあるそうだ。


 この国の大きさを聞くと、横断するのに馬車で一年はかかると言われているらしい。人間の国の何倍だろうか?


 あと、冒険者ギルドのようなものがあるか聞いたが、ないそうだ。魔物に対しては騎士団が対応するのが普通で、ゴブリンなどの弱い魔物であれば自警団で十分対応できるそうだ。

 商人などは移動時に護衛を雇うことがあるが、冒険者ではなく、傭兵を雇うらしい。傭兵ギルドというものは存在せず、それぞれ毎に〇〇団と名乗って独自で商売しているとか。


 俺たちの身分証をどうにか出来ないか聞いたら、役所で発行される身分証明書が一般的だそうだ。外国人の俺たちに発行されるかは分からないが、国内すべてで使える身分証明書はそれくらいらしい。




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