206 領主の館
ロアナでイングリッド教国の船を待っていると、自然と街にも出ることになる。
魚介類が豊富で、市も盛んだ。しかし、主食のパンが高く、生活は厳しいらしい。それでもこの港には支援物資が届く場所なので、麦が手に入るだけマシなのだそうだ。
何日かすると、イングリッド教国の船がやってきた。
支援物資なども持ってきたようで、数日待って欲しいと言われた。船員にも休息は必要だろうしね。海の上では娯楽はないので、港に着くと、みんな飲みに行ったりしてリフレッシュするそうだ。
別に今更何日か遅れようが大して違わないので、ゆっくり待つことにした。だけどご飯がまずいのだけはなんとかして欲しい。
補給物資が届いたので生活が楽になるかというと、そうでもないらしい。補給物資のほとんどは王都に運ばれるとのこと。
盗賊に狙われやすいので、普段の倍は冒険者を雇うという。冒険者が盗賊化しないのだろうか?
船員の休暇が終わるのを待っていると、ザパンニとベスク王国、アズール帝国の役人の一団がやってきたようだ。イングリッド教国と話をつけて、同乗させてもらうことにしたらしい。各国の友好使節団といったところか。頼むから俺のいないところで政治をして欲しい。
とにかくこれで搭乗する人は全員揃ったらしい。船員も皆戻ってきていて、いつでも出航できる状態だ。
「錨を上げろー、帆を張れー、出航ー」
ガレー船じゃないので、後ろに向けて漕ぐ訳じゃない。帆を張って逆風の風を受けるのだ。順風の時は<風魔法>で後退するとか。風が強い時は小型船で牽引して舟先を後ろに向けてもらうとかするらしい。その後なら真正面からの風でさえも斜めに進むことで前進できるらしい。小舟を漕ぐ方、お疲れ様です。
獣人の大陸は北東にあることは分かっているので、最初から北東を目指す。24日目には獣人大陸に接近した。東に大陸が見えるので、約束の港は一旦南下する必要がある。岸に付かず離れずに行くこと1週間。ようやく港が見えてきた。それほど大きな港ではないが、一応大型船の停泊場所もあった。もう一隻あったので、前回人間大陸に来た時の船だろう。
俺たちは下船した後、港の管理事務所というところに通された。他の人たちも一緒だ。
人間がこの港を使うのは初めてだそうで、通常の手続きでは入国が認められないそうだ。領主に連絡をやったので、しばらく待ってくれと言われる。
奴隷狩りの船はどうしてたのだろうか?あれも大型船なので、それなりの設備がないと接岸できないはずだけど。ああ、そうか。小舟を下ろして船員を運んだのか。それなら納得だ。
しばらく待つと馬車がやってきた。豪華な服を着た狼の獣人だ。
「あなた方がやってきたという人間か。アレックス殿より聞いている。聖女様というのはどなたかな?」
「私です。今代の聖女を務めさせていただております、セルジュと申します」
セルジュ様が名乗りをあげた。
「これはご丁寧に。このヤードの街の管理を任されております、クボークと申します。
私の館に向かいましょう。精一杯のもてなしをさせていただきます。
それで、後ろの方はどなたですかな?」
各国の使節団のことだ。
「はい、人間の国の各国の使節団になります。代表者として挨拶をしたいと同行しております」
「ふむ、その件に関しては私にはなんとも言えませんな。王宮に使いを出しますので、返答が来るまで我が屋敷でおくつろぎください」
クボークさんは人間に偏見がないようだ。この辺なら奴隷狩りのことも知ってそうだけどね。
領主の館というのは立派なものだった。港からは離れているが、高級住宅街だ。周りには、他の貴族か商人かはわからないが、大きな家が立ち並んでいる。
館の門をくぐると、さらに5分ほど馬車に乗っていた。前庭も広いらしい。馬車の中では横しか見えないので、奥行きまではわからなかった。
馬車は玄関に横付けされたようで、降りると立派な扉があった。到着してすぐに扉が開かれ、中に招き入れられた。玄関を開けたのはウサギの獣人だった。
俺たちは応接室に通され、クボークさんと簡単に目的などを話し合った。入れたのは各団体の代表だけだ。この部屋に全員は入れないからね。クボークさんも人間と話すのは初めてらしく、どう接して良いかわからないようだったが、10分ほども話すと、慣れてきたようだ。
本当に簡単にだが、目的を話したところで、うさ耳メイドさんが客室が用意できたと伝えてくれた。
俺たちは部屋を割り当てられて、夕食まで休むことになったが、俺たちはセルジュ様の護衛という立場での渡来なので、従者用の部屋を割り当てられた。宿屋のようなベッドとクローゼットがあるだけの部屋だ。
俺が一人部屋で、メアリーたちは2人部屋を2部屋割り当てられている。
セルジュ様はもっと豪華な寝室と応接室が別々になった貴賓室だ。
各国の代表も似たような待遇らしい。対応が決まるまでは賓客扱いのようだ。
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