201 獣人の襲撃


 俺たちの目の前で、セルジュ様が光に包まれていた。

 体から湧き出るような柔らかな光があたりを照らし、それがただ事ではない事を示していた。



 俺たちは昼食の後のお茶を楽しんでいた。

 会話も弾み、そろそろお開きにしようかと考えていた時だ。


 セルジュ様が急に立ち上がり、上を向いた。

 俺たちが何事かと、注目すると、セルジュ様から光が漏れ出し、表情がなくなった。力も抜けて立っていられるのが不思議なくらいだ。


 しばらく光が続いたかと思うと、急に光が止み、セルジュ様は倒れ込んだ。慌ててたすけおこすが、気を失っているようだ。


 女性陣に寝室に連れて行ってもらい、そのまま看病してもらった。

 数時間後、セルジュ様は目を覚まし、俺たちに告げた。


「<神託>がありました」


 先ほどの光は神託の際に起こる現象だったそうだ。


「神託の内容は、『北東に騒乱の兆しあり』です」


 セルジュ様から語られたのは、たったの一言だった。

 それを聞いてどうしろというのか。


 セルジュ様は神殿に使いをやり、さらにアズール帝国にも鳩便を出した。北東というからにはアズール帝国領内だと考えたのだろう。


 セルジュ様は北東の様子がきになるようで、俺たちにもアズール帝国に行ってくれないかとお願いしてきた。

 俺たちは特に用事もなかったので、了承したが、何が起こるんだろうか?


 アズール帝国の東となれば、帝都カズンまで一月、さらに東に向かうとなれば、さらに一月かかる。

 急いで食料などを調達し、陛下にも挨拶して出発した。


 北の山脈まで行って、迂回して2週間、そして王都まで十日だ。

 帝都カズンではセルジュ様が皇帝に改めて<神託>の内容を告げ、警戒するように呼びかけた。騎士の一団を派遣する用意をしているそうだ。


 俺たちはその出発を待たずに、先行する形で、東に向かう。

 東と言っても広いので、途中のヤムルの街で情報を集めることにする。特に問題は起きてないようだ。どうやら間に合ったらしい。


 ヤムルにも帝都から情報が入っていたようで、上級冒険者が集められていた。騒乱があるということは戦いがあるということだ。戦力はあって困ることはない。


 ギルドに顔を出し、Sランクのギルドカードを示して、情報を宿に届けてもらう事にした。


 中級の宿屋に泊まって待つ事一月、最初の情報が飛び込んできた。

 東の海岸に所属不明の大型船が見つかったらしい。なんでも獣人と思しき集団が乗ってたという。


 獣人の集団は武装しており、海岸に陣地を構築しているようだ。戦争になるのだろうか?


 セルジュ様の希望で、獣人の陣地が見える位置まで移動した。俺は戦争に参加する気は無いが、戦争が未然に防げるならその方がいい。

 陣地には獣人が見張りに立っていて、しっかりとした陣地が構築されているのが見える。


 眺めていると、見たことのあるライオンの獣人がいた。多分アレックスだろう。鹵獲した船を使ってきたのだろうか。帆船は扱いが難しいと聞いたことがあるが、よくこの短期間にものにしたものだ。


 帝国の使者が獣人の陣地に向かっていき、中に迎え入れられる。おそらく帝国の潔白を表明しているんだろうけど、獣人にとっては国の違いなど関係ないだろう。


「セルジュ様、どうされますか?俺は戦争に加担するつもりはありませんが」


「私も戦争に加担するつもりはありませんが、戦争を回避できるのであれば、尽力したいと思っております」


「しかし、獣人には聖女の階位も通用しませんよ?」


「それはそうですが、何もしないと言うのも。。。」


「現状、俺たちにできることはありません。セルジュ様が出来る事と言ったら祈ることでしょうか」


「出来れば獣人達と直接話しがしたいのですが」


「うーん、難しいんじゃないですかね。獣人がイングリッド教を信じてるとも限りませんし」


「女神様の威光は全ての人にあまねく注がれています。獣人といえども女神様を無下にできるとは思えません」


 俺としては獣人が他の神を信仰している方に一票なのだが。いるのか知らないが、獣人の神とか信仰していてもおかしくない。


「とにかく一度話をしてみないと始まりません。出来ればジン様にはついて来ていただきたいのですが」


「俺がですか?いざとなれば逃げれますが、あまり気乗りしませんね」


「お願いします。ここで放っておいたら大変なことになります。女神様からの<神託>と言うことは私に何かして欲しいと言うことだと思っております。

 なので、険悪になる前に一度話をしておきたいのです」


「まあ、そこまで言うのなら行ってもいいですが」


「よろしくお願いします」



 俺たちはまず帝国の陣地に向かった。許可を取っておかないと、面倒なことになるからだ。


「私が交渉に向かいたいと思います。これでも聖女を務めさせていただいていますので、獣人の方も無下にはされないでしょう。適任かと思いますが」


「しかしそれでは聖女様が危険に、、、」


「その為に、Sランク冒険者のジン様に同行をお願いしています」


 俺は会釈しておく。


「わかりました。何か動きがあれば、すぐに対処しますので、どうかご無事で」


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