199 ヤパンニ怠惰説
お茶をしたりしていると、時間はあっという間に過ぎ、そろそろリリア達が帰ってくる頃だ。
「おかえり、リリア」
「ジン様!」
リリアが俺の胸に飛び込んできて、泣き始めた。
女の涙はなれないね。
「リリア、泣かないで。せっかく再会したんだ。笑顔でいてくれ」
「だって、だって、ジン様ー。えぐっえぐっ」
「ふう、大丈夫ですよ、俺はここにいます。いきなり消えたりはしませんよ」
「リリアは本当に心配したんですのよ。もっと慰めてあげてくださいな。」
メアリーが話しかけてくるが、お前は心配してなかったのか?
「もちろん、私も心配しておりましたわ。未来の旦那様ですからね」
「いや、それは了承していない」
「それは残念」
「私からも生存のお祝いを述べさせていただきますわ。無事でよかったです」
セルジュ様だ。一緒に探してくれたのだろう。
俺がいなくなったら、教国に帰ったと思ってたのだが。
「神託はそんなに軽くはありませんわ。従者として仕える以上、新たな神託が降るまでは従者ですわ。勝手に戻ったりしません」
ふむ、神託は思ったよりも強力な発言力を持つらしい。
「それで俺がいない間はどうなってましたか?」
「リリア様とクレア様が泣いてしまって。メアリー様はしょげかえっていましたし。もちろん私も慌てましたよ。せっかく従者になる事を認めていただいたのに、いきなり主を見失うなんて。従者失格ですわ。マリア様は付いて行ったのに、私がついて行かなかったなんて。自分が不甲斐ないですわ」
俺はリリアをあやしながら、いない間のことを聞いていく。
どうやら流れ着くならヤパンニ王国だろうということで、ヤパンニ王国を中心に探し回ったらしい。ベスク王国でも捜索隊が出されて、沿岸部を探し回ったとか。
今度ベスク王国に何かお礼をしないとな。
「それで、どこを探しても見つからず、途方に暮れておりました。
そんな時に伯爵様から鳩便が届いたのですわ。ジン様が生きており、オーユゴック領に戻ってると。
私たちはあちこちに連絡を入れ、発見されたことを伝えましたわ。捜索を打ち切らないといけませんでしたので」
なるほど、その辺からギルドにも漏れたのかな。
「なんにせよ、迷惑をかけたな。すまなかった。そしてありがとう。心配してくれて嬉しいよ」
「このくらいはなんでもありませんわ。リリア様に言ってあげてくださいな」
「リリア、よく探してくれたな。ありがとう」
「ジンザマー、えぐっえぐっ」
「ほら鼻をかんで。はい、チーン」
俺はリリアの顔を整えさせると、皆にとりあえず休むように言った。ヤパンニからひと月かけて戻ってきたのだ。疲れているだろう。
「話は後でもできる。とりあえず一旦休んでくれ」
俺たちは翌日、お茶をしながら改めていなかった間のことを話し合った。
俺は獣人の大陸のことは話さなかった。話しても意味ないし、それが広まって、また奴隷狩りなんてことになったら悲惨だからね。
「それで、セルジュ様、ヤパンニでの慰問は無事終わりましたか?」
「それどころではありませんでしたが、一応は終わりましたわ。何度か炊き出しも行いましたし。しかし、あの国はだいぶ疲弊していますね。王宮でも活気がありませんでした。
王都も閑散としていましたし、商店も閉まっているところが多かったです」
まあそんな所だろう。あの国、存続してるのが不思議なほどだし。
「塩を真面目に作らせてちゃんとした品質にする所から指導しているそうですわ。塩さえ売れれば多少は立ち直れるでしょうし」
メアリーが話に入ってくる。
「塩だけで国が立ち直れるのか?」
「少なくとも復興費用の足しにはなりますわ。今のままでは収入がありませんし。いつまでも他国が援助するわけにも行きませんから」
「塩は品質が悪く、使い物にならないと聞いたけど?」
「だから技術指導してるんですわ。ちゃんとした塩が手に入るならザパンニも助かりますし」
どうやらヤパンニは相当やばい状態のようだ。戦争で農民を徴兵したため、農作物の収穫も減っているとか。天災じゃなくて人災だね。まあ、戦争なんてそんなもんだろうけど。
王太子が初陣だったとか言ってたけど、王宮の予想通り圧勝だったね。俺の予想では何か隠し球があると踏んでたんだけど、ただの馬鹿だったし。
「それにヤパンニの文化というか、習慣があまり勤勉でないため、いい加減な仕事をする工房が多いようです」
セルジュ様はどこから情報を仕入れたのだろう?
「いい加減な工房で作られた商品は品質が悪く、他国では売れません。なので、外貨が稼げず、余計に悪い環境になっています」
セルジュ様がそこまでいうのだ。余程酷いのだろう。ヤパンニが酷いのは国だけでなく、国民性だったのか?他国とロビー活動を活発にしてるというから、もっと他国の影響を受けてそうなんだけど。
「ヤパンニは貴族以外の教育に熱心じゃありませんの。というか、あえて教育していませんわね。ロビー活動しているのは専門の教育を受けた貴族だけです。それ以外は自国の中で安穏と暮らしていたみたいですわね」
「つまり、ヤパンニはロクでもないと」
「否定できませんわね」
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