173 ケンウッド伯爵
俺たちの乗る船が着いたらしい。
港を管理している商会から連絡が来た。それに関して話があるとも。
俺はメアリーとリリアを連れて商会の事務所に来ていた。話を聞くためだ。
「ようこそおいでくださいました。当商会になんのご用でしょうか?」
「呼ばれてきたんだが。冒険者のジンという」
「ああ、お聞きしております。少々お待ちくださいませ」
受付は奥に入っていき、すぐ戻ってきた。
「当商会の会長がお会いになるそうです」
俺たちは2階に通された。
「よくきてくださいました。ジン様。今回は当商会の船をお選びいただきありがとうございます」
「それで、話があると聞きましたが?」
「はい、実は馬車なんですが、おいていかれるつもりはありませんか?」
「どう言うことです?」
「実は馬車のスペースは2台までなんですが、ある貴族様が馬車を2台乗せると言い出しまして。先客であるジン様を優先したい所ですが。。。」
「それは乗せる気がないと?」
「いえいえ、ジン様に乗っていただくのは問題ありません。ただ、馬車をこの街に預けて行く気がないかお尋ねしているだけです」
それは遠回しに持って行くなと言ってるよね。
「その貴族様の方があとで予約したんですよね?私たちには関係ないように思えますが」
「ですから、その馬車の預かり料などはこちらで持ちますので。。。」
「イングリッド教国でも馬車は必要になります。なので、おいて行くつもりはありません」
別大陸に行くとかだったら考えるけどね。
「そこをなんとか。。。」
「なりません。その貴族様にお伝えください。こちらが先客だと」
「そうですか。。。」
俺たちは不愉快に思いながらも、宿に帰った。
翌日、貴族と思われる人物が宿に面会を求めてきた。
俺たちが下の食堂に降りると、『フリルの付いた上着に、ピッタリとしたズボン』を着た貴族がいた。この服装、流行ってるんだろうか?
「お前がジンとか言う冒険者か。馬車のスペースを譲れ。大銀貨1枚払ってやろう。わしが使ってやると言うんだ、喜べ」
貴族ってこんなのしかいないのかな?もうちょっとマシなのが居ても良いと思うんだが。
「申し訳ありませんが、譲る気はありません。我々にも馬車は必要なのです」
「何を言っている、馬車のスペースはわしが使うと言ってるんだ。素直にあけわたせ」
「何度でも申し上げますが、譲る気はありません」
「なんだと!わしを敵に回す気か!わしは伯爵だぞ!平民の分際で生意気な!最後にもう一度だけ聞くぞ?譲れ!」
「嫌です」
「そうか、どうなっても知らんからな!」
貴族はそのまま帰っていった。
いちゃもんでもつけて、犯罪者にでもされるのかな?
その日の昼頃に、船を扱っている商会から呼び出しがかかった。
「ジン様、申し訳ありません、今回のご乗車を取りやめて頂く事になりました。こちらは費用の返却になります」
会長さんが金貨を3枚渡してくるが、受け取らない。
「貴族からの横槍でも入りましたか?」
もう貴族様なんて敬称つけてあげない。
「ええ、ケンウッド伯爵はこの辺りの商売を管理している方で、大きな影響力を持っています。税の値上げをちらつけられてはどうしようもありません。なので申し訳ありませんが、ここは諦めてください。
もちろん、次回の定期便には優先的にご予約させていただきます」
いや、そう言う問題じゃないでしょうに。
ただ、俺たちに何ができるわけでもないので、一旦引く事にした。
「どうするか。伯爵ともなれば影響力もハンパないだろうし、泣き寝入り?いや、それも無いな。相応の報いは受けてもらわないと。何か良い考えないか?」
「不正でも暴いてやれば胸はすっとしますわ!こんな財源の大きな領地ですもの。横領の一つや二つしているはずですわ」
「それ、俺たちじゃ暴けないだろう?」
「それはそうですが。。。」
「とりあえず、今回の定期便は諦めだ。次回に乗るかどうかだが、俺は不愉快なので、船に乗らずに陸路を提案する」
「確かに面白くは無いですわね」
「ケンウッド伯爵には後で痛い目を見てもらおう」
「何か策があるんですの?」
「いや、今はない。だけど、将来、いつか報いを受けてもらう」
「負け犬の僻みですわよ?」
「俺がやると言ってるんだ。絶対にやる。今は調査する時間が惜しいだけだ」
「ふう、仕方ありませんわね。ここはジン様を立てておきますわ」
「ああ、そうしてくれ。俺は馬車の中で仕返し方法でも考えておこう」
「ご主人様がああなったら、どうしようもないな」
「ご主人様に堂々と無理を言いつけるなんて、あの貴族も長く無いですね」
「何かやると思ってるのか?」
「ええ、ご主人様があれだけやる気出してるんです。きっと何かやります」
「しかし、貴族相手に何ができる?ここはザパンニ王国じゃないんだぞ?」
「それでもご主人様ならなんとかするでしょう」
「ご主人様を信頼してるのか、微妙なラインだな」
「何を言ってるんですか、ご主人様ですよ?絶対に何かやります」
とかいう話があったとかなかったとか。
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