166 村の窮状


リリアがしょんぼりしている間にも、日は経って行く。


シグルド殿下と並んで馬車に乗りながら、ダンジョンに向かう。

リリアたちは自前の馬車に乗っている。


「それで、騎士団の護衛は構いませんが、こんな仰々しいのが必要だったのですか?」


護衛の騎士だけで100人ほどいる。


「父上が心配性でな。兄上と一緒にこの人数を決めてしまわれて、どうにもならん。私もこんなに人数入らないと思うんだが」


シグルド殿下も苦々しそうに言う。

王族だとこの位なのかと一瞬思ったが、違ったらしい。


「愛されてるんですね」


「そうだな、愛されてると行ってもいいが、母上のせいだな。母上は病弱で2人目の私を産んですぐに亡くなられた。

王女を生んだのは後妻だな。義母上も優しくしてくれるが、父上はもっと甘やかしてくる。私には不要なのに」


「それを愛されてるというんですよ」


「まあそうかもしれんが。。。」


そうやって雑談をしていると、騎士から声が上がった。


「前方に不審者発見!警戒を!」


この辺は警備兵が定期的に巡回しており、安全だと聞いたんだが。。。

前後に騎士を率いている馬車を狙うだろうか?



「貴族様とお見受けします。どうか村の窮状をお救いください」


街道にいたのは近くの村の農民らしい。何か困ってるようだが、『成人の儀』に向かっている俺たちがどうこうできる話じゃないだろう。この付近を治めている貴族にいうべきだ。


「話を聞こう」


殿下が馬車を止めさせ、降りる。おれも護衛なので降りるが、こういう予定外の騒動は出来ればごめんこうむりたい。


「殿下、ここは治めている貴族に対応させるべきでは?」


「ここは王領だ。王子として聞く義務がある。叶えるかは別問題だが」


「それで、なんだ。困っているようだが、私に出来る事はそれほどないぞ?」


「はい、実は北の草原にマンティコアが住み着いたようでして。冒険者ギルドに依頼したいのですが、マンティコアの討伐となると、Aランクだと言われて。この村ではAランクの依頼料は用意できませんでした。

なので、貴族様から代官様に取り次いでいただけないかと思いまして。」


「なぜ直接代官に言わん?」


「はい、なんでも自分たちの事は自分たちでやれ。平民が意見する気か、と追い出されまして。仕方なく誰か偉い方が通らないか街道で様子を見ていた次第です」


「代官がそんなことを言ったのか?代官の名前は?」


「はい、ゴスペール子爵です」


「ゴスペール子爵か。なるほど」


どうやら、ゴスペール子爵というのは、生粋の貴族主義で、平民を見下しているらしい。なんでそんな奴を大事な王領の代官をさせてるんだろう?


「まあ、そういうな、代官としては優秀なのだ。直接民衆と関わらない限り、民のことも考えている。直接目の前にすると貴族主義が仇になるようだが」


そんなもんかね。それも含めて優秀かどうか判断すべきだと思うけどね。

何にせよ、関わるつもりだろうか?騎士団を使えば倒せるとは思うけど、、、大事な『成人の儀』の途中ですよ?


「ジン殿、なんとかならんか?」


おや、こちらにお鉢が回ってきた。


「今は殿下の『成人の儀』の護衛です。他の依頼を受けるわけには。。。」


「それもそうだな。

ゴスペール子爵に伝令を出せ。必要なら対策するようにと。結果は帰りに聞く」


よかった。殿下が直接解決に乗り出したらおれも自動的に護衛する羽目になるからな。その辺分かっていながら解決に乗り出すようなら、今後の付き合いも考える必要があったのだが。ちゃんと区別はつけているらしい。




タスクの街に着いた。

ダンジョンの街だけあって、冒険者が多い。それも装備がちゃんと揃っていないチグハグな冒険者が多い。初級ダンジョンなので、まだ装備が整ってない若いのが多いのだろう。

殿下達は宿で休憩するというので、おれはギルドにやってきた。


「すいません、ダンジョンについてお伺いしたいんですが」


おれはFランクのギルド証を見せながら尋ねる。こういう時Fランクだと便利だよね。Sランクだと初級ダンジョンに何の用だって話になるしね。


「あら、Fランクね。大丈夫よ、ここは初級だから、Fランクでも仕事はあるわ。ただ、ダンジョンに潜るのはせめてDランクになってからの方がいいわね。

もちろん、あなたに実力がないと言ってるわけじゃないのよ?でも戦闘力と冒険者に必要な能力は別なの。それにソロじゃダンジョンは厳しいわね。日帰りならソロでも出来るけど、泊まりになると一人じゃ見張りもできないわ。

なので、せめてパーティを組んでからにしなさい」


親切にこちらの身になって説明してくれるのだが、もっと具体的な話を聞かせてほしい。


「あの、それでダンジョンはどんな感じなんでしょうか?」


「そうね、ごく普通に想像できるダンジョンそのものよ。洞窟型のダンジョンで30層まであるわ。Dランクになればパーティでなら10層まで行けるくらいかしら。

Fランクのソロなら、まずは荷物持ちから始めるといいわ。先輩のノウハウを盗むつもりで頑張ることね」


どうもFランクにこだわって、細かいことを話してくれない。これがFランクの弊害か。今度Dランクまで上げておこう。また肉体労働から始めるのか。旅の途中じゃ、時間的に厳しいかな?


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