141 Sランク依頼 (1)


帝都カズンまでは、草原を抜け、農業地帯を抜ければすぐだ。10日ほどだろうか。

途中は狼程度しか出ず、平穏に着いた。国同士の交易の要所だけあって、定期的に魔物を討伐しているのだとか。


まずは宿をとって、馬車を預けないと。


「マリア、誰かに良い宿がないか、聞いてきてくれ」


「はい」


マリアが聞いたところによると、お風呂のついた高級旅館と、食事の美味しい中級旅館がオススメらしい。温泉でゆっくりした後だし、食事の美味しい店にしようか。お風呂に入りたくなれば宿を変えてもいいしね。


「それなら、最初に高級宿にしませんか?10日ぶりにお風呂に入りたいですわ」


男の俺と違い、10日の野宿で体が気持ち悪いらしい。一応毎日体は拭いてたんだけどね。仕方ない、最初は高級宿に行くか。お金の問題とかもあって、中級を推したのだが。高級温泉宿の料金は半端なかったからね。

一人一泊30万円だ。5人いるので、150万円。一泊の値段だよ?

ここも帝都なので、高級宿というからには半端ないだろう。


「高いから一泊だけな」


「仕方ないですわね」


リリアにはお金の価値を教え込んである。メアリーはあまり実感がないのか、平気な顔をしている。お金ないと悲惨だよ?


高級旅館で予約を取ってから、冒険者ギルドに向かう。何か良い依頼があればいいんだけど。



ギルドの受付で、Sランクだと名乗ると、すぐにギルドマスターが出てきた。ライデンさんというらしい。筋骨隆々でゴツい顔をしている。きっとこの顔で冒険者を従えてるのだろう。


「何かいい依頼はありませんか?」


「そうだな、ケニー、あれはどうだ?」


「あれ、ですか。確かにSランク級の依頼ですが、報酬が釣り合ってません」


「受けるかどうかは冒険者の自由、Sランクの仕事があるなら紹介せんとな」


「報酬が低いのですか?」


「逆です。高いんです。これだけ高いと何か裏があるのではないかと疑いたくなります」


「話を聞かせてください」


「ビットバイパーというAランクの毒蛇をご存知ですか?」


「聞いたことはあります」


「その毒蛇の毒腺の採集です」


「それならAランクの仕事では?」


「それが、Sランクを指定してきていて、報酬が通常の倍なんです」


ふむ。何かおかしいのは確かだな。


「詳細は聞いてないんですか?」


「報酬を高くしてる分、情報不足でも受けてくれとの話で」


それはおかしいな。情報不足では受ける受けないの判断ができない。順番が逆だ。


「この国のSランクはどうしたんですか?」


「断られました。そんな怪しい依頼は受けれないと」


「なるほど。当然ですね。俺も遠慮しておきます」


「仕方ありませんね」


「まあ待て、この仕事、面倒かも知れんが、美味しい可能性もある。

実は最初はAランクの依頼だったんだ。その時も情報不足だったんだが、Aランク依頼の倍額でな。

それが、依頼を受けた後、戻ってこなくてな。実績のあったAランクなだけに、よほどの困難が予想される。そのためにSランクにあげたのだろう。

しかし、必要なのは毒腺だけだ。なら1匹捕まえて採集してしまえばいい。それ以外に何か問題があっても契約外で済ませられる。

冒険者としての仕事内容は毒腺の収集だけだからな」


「ふむ、そういう見方もありますか。ビットバイパーの生息域はわかってるんですか?」


「はい、西の森の沼地に生息しています」


「西の森というと、魔の森とつながっている森でしたか?」


「はい。なので、沼地にSランクの魔物が居座った可能性もあります」


「現状では判断できませんね。依頼主と話はできますか?」


「はい。カインツ子爵という貴族の方です。

帝都の法衣貴族で、平民にも分け隔てなく接する話のわかる方です。それだけに、なぜこんな依頼を出してきたかがわかりません」


「一度お会いしてから決めましょう」


「明日の朝にもう一度来られるはずです。その時であれば応接室をお貸しします」


「では、明日の朝」




「どう思う?」


「胡散臭いですわね。でも人格者ということですし、本当に困っている可能性もありますわね」


「クレア、マリア。カインツ子爵についての噂を調べてきてくれ。一般市民からの声が聞きたいから、酒場でも行けばわかるだろう」


「わかった(りました)」


貴族からの評判は貴族でないとわからない。今日ついた俺たちが噂を集めるなんて無理だ。



二人からの報告によると、人格者なのは確からしい。



「話の内容によっては受けるかも知れない。そのつもりをしておいてくれ」


俺は半分受ける気でいる。沼地にSランクの魔物がいたとしてもだ。

一般市民から評判のいい貴族というのは珍しい。実際には人格者だったとしても、評判が良くなるほどにはならないのが普通だ。

なので、よほどの人格者で、よほどの秘密を抱えているのだろう。


それと気になるのは、お金の出所だ。領地もちの貴族と違って、法衣貴族は年俸制だ。つまり、あまり資産は多くないはずなのだ。なのにSランク依頼の倍額を出すという。

事前情報の対価としては破格だ。


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